すっぴんGallery 二人のアアルト

2020/02/21(金)21:54
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 建築会社の設計部からキュレーターへ。

 転身のアイダからあふれてきた対角線を次々企画にする岡部三知代が、

 編集建築したギャラリーを通じて問いかけるコラム。


 

 編集は、あいだにある。あいだでこそ、メッセージが意味を帯び、アイディアが命をもつ。

 2人の間に生まれた、もう一つのsmallを体感する展示を企画した。あいだは、見逃せないのである。

 

 アイノとアルヴァ二人のアアルト 建築・デザイン・生活革命

 小さな暮らしを考える

 

◎二人のアアルト

 フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルトは20世紀モダニストの一人として有名だが、その妻であり、同じく建築家として活動したアイノ・アアルトは自国内でもあまり知られていない。

 アイノ・マルシオ(後のアイノ・アアルト、1894-1949)が、まだ無名の建築家・アルヴァ・アアルト(1898-1976)の事務所を訪ねたのは1924年のこと。二人はともにヘルシンキ工科大学の卒業生であり、時にアイノ30歳、アルヴァ26歳。 アイノはアルヴァの事務所に入り、二人は半年後に結婚する。不幸にもアイノは54歳という若さで癌を患い他界する。しかし、この25年間は二人にとってかけがえのない創造の時となった。アイノがアルヴァのパートナーになったことで、アルヴァに「暮らしを大切にする」という視点が加わり、使いやすさ、心地よさが設計の中心となり、空間にやわらかさと優しさを生みだす。アルヴァがモダニズム建築の流れのなかで、ヒューマニズムと自然主義が宿る特異な建築家として世界的に名を知られたのは、多分にアイノの影響があったと想像できる。

 

◎ふたつのsmall

  「人々が250㎡の床面積のアパートを70㎡のアパートに変えることを考える時が来る ーそしてその時は間近に迫っている。」アルヴァ・アアルト

 

 本展サブタイトルの「Small is beautiful」は、イギリスの経済者E.F.シューマッハーが1973年に提唱した「小さいことにとても大きな価値を付与する考え方」の標語から用いた。近年、環境的配慮から、消費し過ぎないシンプルな暮らし方が世界的に見直されつつある中で、北欧の政治やライフスタイルに注目が集まっている。

 しかし、二人のアアルトが生きた1920年代から40年代のフィンランドは、二度の世界大戦と、世界大恐慌が勃発し、隣国からの度重なる侵略に国力を奪われた。経済の拡張が地球環境の持続可能性を脅かすという社会課題よりも、住宅供給や労働力の確保といった、生活環境の改善こそが喫緊の課題であった。二人の建築家は、国家の住宅需要や復興のため、労働者階級のアパートメントや木造の戸建て住宅、保育施設、病院等の設計で、デザインの標準化を行い、低コスト、量産化を提唱し、高品質な製品を人々の暮らしに普及させたのだった。モダニズム文化をベースにしつつも決してフィンランドの文化を置き去りにすることなく、公共に尽くした二人のアアルトの仕事は、小さくとも豊かに生きるというコンセプトで、建築、デザインを通して生活革命を起こした。

 

 本企画は現在、第1章をギャラリーエークワッドで開催中。

 http://www.a-quad.jp/

 

 3月28日からは、第2章「アアルトの木材曲げ加工の技術革新と家具デザイン」を新神戸の竹中大工道具館で紹介する。

 https://www.dougukan.jp/special_exhibition/aalto

 

 さらに、アイノとアルヴァ・アアルトがともに歩んだ25年の全貌は、10章立てとして2021年2月世田谷美術館、その後7月に兵庫県立美術館に展開する予定である。

 

 

 

 

 

  • 岡部 三知代すっぴんロケット

    編集的先達:トーヴェ・ヤンソン。師範代時代は小さい子どもをかかえ、設計担当として建築現場をヘルメットをかぶりながら駆け巡り、編集稽古をポリロールした。ギャラリーの立ち上げをまかされ、奔走し、学芸員となって、メセナアワード2014を受賞。その企画運営は編集学校で学んだ編集力が遺憾なく発揮されている。

コメント

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堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。