遊刊エディスト編集部から、「演劇をネタに何か書いてほしい」と依頼を受けた。この8年ほど、僕が年間70~100本程度の舞台を見に行っているからだ。このくらいの数で演劇通を名乗るつもりはないが、とはいえ普通よりは明らかに多いだろう。演劇に多少の興味をもつ方々に向けて、何か少し語るくらいならできそうだ、と思った。ただ、エディストで演劇だけについて語るのは違和感があったので、「演劇×本×千夜千冊」で書いてみることにした。題して[芝居と読書と千の夜]。
ただ、こんなときに演劇を勧めるのは気が引ける。だいたい本人からして、2月中旬以降は劇場に足を運べていない。多くの劇団・劇場の経済的基盤は強くないだろうから、その意味でも何とか行きたいと思うのだが、やはり中止が多く、開催された公演もさまざまな事情でどうしても観劇が難しい。そこで、しばらくは「新型コロナウイルス問題が収まってから見てほしいもの」という前提で書きたい。また、演劇以外の映像作品や映像コンテンツを選ぶ可能性もある。なんとタイミングの悪いスタートか、とも思うが、こういうときだからこそ書く時間が取れることも確かなので、前向きに考えたい。
前置きが長くなった。では、はじめます。
僕が、もし誰かに「お芝居を見たことがないんですが、最初に何を見たらいいですか?」と聞かれたら、どう答えるか。もし相手が首都圏在住で、じかに生身が動くのが見たいのであれば、●芸劇/東京芸術劇場(池袋) ●KAAT/神奈川芸術劇場(元町・中華街) ●こまばアゴラ劇場(平田オリザさんのところ・駒場東大前) ●ザ・スズナリ(下北沢) ●彩の国さいたま芸術劇場(与野本町) ●吉祥寺シアター(吉祥寺) ●座・高円寺(高円寺)あたりを中心に、まずは気になった舞台を手当たり次第にいくつか見てみることをお勧めする。お財布に余裕がある場合は、●シアターコクーン(渋谷) ●パルコ劇場(渋谷) ●新国立劇場(初台) ●本多劇場(下北沢) ●世田谷パブリックシアター(三軒茶屋)なども加えれば間違いない。加えて、家がどの辺りかがわかれば、近場の良い小劇場も教えられる。
ただ、観劇体験の第一歩として、誰にでも広く勧められるのは、「ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)」である。英国ナショナル・シアターを中心とした選り抜きの海外演劇作品を、映画館で上映するプロジェクトだ。日本では2014年から始まり、現在は毎年8作品前後が新規放映されている。観劇初心者の皆さんにお勧めしたいのは、次の理由から。
僕は毎年、3~4つほどを見ている。初めて見たのは、確かスタインベックの『二十日鼠と人間』で、これがたいそう良かったのでハマり、それ以来、『オセロ』『夜中に犬に起こった奇妙な事件』『深く青い海』『ハングメン』『誰もいない国』『ヘッダ・ガーブレル』『エンジェルス・イン・アメリカ』『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』などなど、素晴らしい作品をいくつも見た。損したなと思ったことはほとんどない。
なお、2020年4月は、ナショナル・シアター・ライブの過去作品が、英国ナショナル・シアターのYouTubeチャンネルで毎週1本ずつ無料配信されている。日本語字幕はないけれど、それでもわかる方はぜひどうぞ。
と、ここまで書いて、すでに十分長くなったことに気づいたので、今日はここまで。次回からが本番です。
(※トップ画像はChristos GiakkasによるPixabayからの画像)
米川青馬
編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。
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