■ヒカキン研究
STEAMライブラリーサイトを閲覧するたびに気になることがあった。動画の静止画像が同じアイキャッチ画像になっていることだ。12コマ分の動画のほとんどがその画像になっているために、ぱっと見、そのコマがいったいどんな内容なのかが全く想像できない。要するにアフォーダンスが一様なのだ。そう思いませんか?(以下、STEAMライブラリーサイト)
STEAMライブラリーサイトにおけるMEdit Labの閲覧画面
多読ジムがすでに二回目の春を迎える中、MEdit Labも2シーズン目に突入している。今年度は、「おしゃべり病理医MEdit Lab」の実証事業とその成果をもとにした教材の改修企画に重ねて、“おしゃ病第二弾”を新規に開発する予定である。
すでに、実証事業は、広尾学園中学校をはじめ、いくつかの学校で開始され、Labに参加した生徒さんの生の声が集まってきている。新しい教材についても、Zoomミーティングを重ねていく中で構想の核が出来上がりつつある。医療の「心・技・体」の3つのテーマについて、今回はおしゃべり病理医が別の誰かと対談するという形になりそうだ。今からワクワクどきどきしている。
息子と娘にSTEAMライブラリーサイトを見せて「どう思う?」と聞いてみた。「あまりそそられないし、そもそもよくわからない」と即答された。若いひと(って言っているあたりがおばさんっぽいと自分で思う)は、サムネイル画像をざ~っと流しながら、面白そうな雰囲気のものをクリックして閲覧する。だから、サムネイルからのアフォーダンスが弱ければスルーされるし、数秒以内で内容とモードを伝えるメディアの力がサムネイルには求められるということだ。ヒカキンなど人気YouTuberは、さすがにうまいから研究するといいよ、とふたりにご教授いただく。
さっそく検索してみる。なるほど。ヒカキンのサムネイルは、デザインの好き嫌いを(ヒカキンの顔がタイプかどうかも)別にして、とにかくわかりやすい。小学生に人気なのもうなづける。
「バターチキンカレー作ってみた!!」
「ヨーグルトアイスランキング」
「謎の箱 超巨大」
でかでかとテロップの文字が踊り、ヒカキンの表情も豊かだ。こういうのがウケるのか。世の中の「わかりやすい」に対抗するのが編集工学ではあるが、サムネイルに関しては、クリックさせるわかりやすさが優先される。とにかく動画を観てもらわなければ話にならないのだから。それにしてもこんなふうに真面目にヒカキンを研究する日が来るとは…。
誇らしいことに、「おしゃべり病理医MEdit Lab」はSTEAMライブラリーの教材の中で、アクセスランキングトップ3につねにいるらしい。今後も人気の教材トップに君臨するには、サムネイルデザインを強化して、中高生を魅惑していかないといけない。
サムネイルデザインについては全く心配がなかった。なんといってもわがチームには、”キラキラデザイナー”の穂積くんがいるからだ。あとは、教材の内容が一目瞭然、瞬時にわかるキャッチコピーを考えるだけである。それだって、“ぶっとんでるディレクター”吉村さんや”きゅんきゅんメディエーター”金くんを筆頭に、メディエーション力で言えば、イシスで右に出るものはいない面々が勢ぞろいしている。なんと頼もしい。
■キャッチコピー編集稽古
先日のMEdit LabのZoomミーティングは、12コマ分のキャッチコピーの候補をどんどんチャットに書き込んでいく、早押し編集クイズと化した。
”妖しいコーディネーター”衣笠純子ちゃんが「では、次、医学×バイオの2です~」と声掛けする。すぐさま映像の内容とモードがぎゅっと凝縮したキャッチコピーを我先にと上げていく。吉村さんが投入してくるへんてこりんだけれども絶妙なコピーに対抗すべく私も頑張る。
「紙芝居、免疫劇場!」
「おしゃべり病理医おしゃべりしすぎ」
どうだ?どうだ~?!
様々な案が次から次へとチャットに打ち込まれる。だいたい5分もするとたくさんの案が出てくるため、あっという間に12コマ分のアイディアが出揃った。あとはそれを穂積デザイナーに託し、写真とあわせてサムネイルに仕立ててもらう。ミーティングはあっという間だったが、けっこう疲れた。集中したからなのと笑い過ぎたからだ。
なかなかの編集稽古だった。動画の内容を要約しつつ、そこから3Mを駆使し、短文や単語に内容とモードを合わせて乗せていく必要があるキャッチコピー早押しクイズは、編集エクササイズとしてかなり高度であった。YouTuberのサムネイル編集力は、バカにしたものではない。ヒカキンやるね。
■穂積デザイン、MEdit Labサムネイルベスト3
キャッチコピー編集稽古と小森動画からピックアップされた写真、そして、穂積デザイナーのフォントデザインの三位一体によるサムネイルはどう仕上がったか。出来上がった穂積デザインサムネイルを一目見て、娘はこう叫んだ「わかってらっしゃる~♪」。
MEdit Labチームのお気に入りベスト1は、アイキャッチ画像に採用した「医学×歴史2」のこちらのサムネイル。衣笠じゅんちゃんの演技指導と小森監督のダメ出しによるDJおぐらヴァージョンである。この動画は、病名の歴史について語る真面目な内容のはずなのだが、サムネイルの私は、Yo Yoとか言っている。いいのだろうかと一抹の不安を感じるが、何か面白そうと思ってもらえたらそれでいいのだ。
「医学×歴史2」
病名から唯名論まで、名づけの威力を知る授業
「ガイダンス&プレワーク」のサムネイルは、キャッチコピーの迫力がピカイチ。自転車に乗るおしゃべり病理医が暴走していることをイメージしていただければ。それにしても病院に自転車を乗り入れても怒らない職場の上司たちには感謝しかない。
「ガイダンス&プレワーク」
MEdit Labの学びのめあて、編集工学から病理診断のプロセスまでてんこ盛りの動画
「医学×読書1」の医療面接シーンに登場するカエルくんが愛らしいこちらもお気に入りだ。実は、このカエルくん、吉村家にあったカエルのぬいぐるみで、若干くたびれていたのだが、丸洗いでさっぱりして登場。口がふさがらないカエルくんは喉が乾燥しやすい。
「医学×読書1」
「読書」とは読んで書くこと。医師の読み書き術を身につける近道は医療面接ワークだ
■知よりもメディエーションが上
先日、14離の退院式を終えたあと、校長が、退院式の振り返りをしつつ、「知よりもメディエーションが上だよ」と言った。
「知よりもメディエーションが上」。私にとって[離]という学びの場は、ホンモノの知の場であるという認識があった。退院式後で、余計にそういうモードであった私にとって、メディエーションの方が上級なんだという話は、けっこうズキンときた。
でも一方で、やっぱりそうだよね、という気持ちも強くあった。このMEdit Labのプロジェクトが始まってから、メディア・メッセージ・メソッドの3Mの重要性を痛感してきたからだ。伝わらなければ意味がないのである。編集は表象に向かってナンボである。表象に向かう努力をせずして編集は語れない。
メソッドに関しては、編集稽古で編集の型を学ぶことでだいぶ身につくし、理解も深まる。でもそこからが大問題。自分が何を伝えたいか、メッセージが実は明確でないことが意外に少なくないし、プランニング編集の最初にあたる与件の整理ができていないとメッセージは定まらない。さらに、決まったメッセージを何に乗せるか、どう乗せるか。メディエーションはそこまでできてこそだ。そして何より、退院式で大音冊匠もおっしゃっていたけれど、「遊び」がないとメディエーションはダメだ。知は、遊びの中に踊ってこそ生き生きとする。やっぱり楽しくないと!
知という剥き出しのコンテンツをメディエーションに昇華するまでが編集なのだから、「知よりメディエーションが上だよ」というのは至極当たり前のことなのであった。校長のコンパイルからエディットへと向かう編集術の極意はメディエーションをターゲットにしているかどうかということに集約される。
最後に、残りのサムネイルもご覧に入れましょう。MEdit Lab第二弾もどうぞお楽しみに!あの人やこの人も登場です!
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「医学×読書2」
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「医学×歴史3」
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(Designed by Hozumi)
いかがでしょうか。ヒカキンに対抗できるかな?
小倉加奈子
編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、同居する親からみると娘、そしてイシス編集学校の「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべりな図鑑』シリーズの執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、医学と編集工学を重ねる試みを続ける。おしゃべり病理医の編集的冒険に注目!
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