図書館スタッフは悲鳴をあげた。「まずは、本をバキバキに割ります」帯を剥がし、表紙を脱がし、両の手でページを掴みぐりぐりと背を開く。「180度開脚できます?あれですあれ」と、福田容子師範はまっさらな新書を手込めにする。参加者は食い入るように見つめた。
本を読むには作法がある。11月4日、大阪・枚方市立さだ図書館で編集ワークショップが開催された。昨年11月に続き2度目の今回は、目次読書がテーマ。「わかる!読める!楽しい!~編集術で鍛える『読む力』」と銘打たれ、11名が参加した。
ナビゲーターの福田は、京都在住、書籍の編集経験も豊富なプロのライターだ。多読ジムの開発メンバーでもあり、松岡正剛の読書術を1年半以上研究。「校長の目の動きまで知りたい」と直々に手ほどきを受けた、読みのエキスパートでもある。
対する参加者も、枚方市内在住の図書館ヘビーユーザーたち。着席するなり配布資料に目を落とし、全員が黙々と『知の編集術』を読んでいる。月5~6冊の読書量には飽き足らず、もっと速く、もっと多くの本を読みたいとの切望が、紙を繰る音となって開始前の会場に満ちていた。
「『読む』と『書く』には共通のコツがあります」福田は、冴えきった関西弁で目次読書のレクチャーを始めた。ポイントは、構造を理解すること。目次は、書き手にとっての設計図。だから、読む場合は、それを見取り図として全体構造を把握すべし。
参加者はペンを走らせ、基本を頭に叩き込む。いよいよ目次読書の実践だ。さだ図書館司書が厳選した新書100冊から、気になる1冊を手に取りスタンバイ。福田のガイドに従って、いざ表紙をめくる。
本の柱である目次を音読、付箋とペンで、キーワードにマーキング。表紙・帯・裏表紙、前書き・後書き・奥付けまで眺めてから、ようやく本文へ。全ページを3分でめくったら、ふたたび目次へ。
本文を1文字ずつ追う従来の読書が一筆書きなら、目次読書はデッサンだ。「2回めに目次を読むと、内容の奥行き、感じますよね」表紙から奥付けまですべてを軽くなぞり、イメージの層を重ね、本の輪郭を立ち上げる。
アタマからお行儀よく読むだけが読書ではない。自分の手に馴染みやすいよう、本をたわめ、ペンで汚し、行きつ戻りつ踊るように本と付き合えばいい。参加者は、たったの20分で初対面の新書と打ち解けた。
ワークの仕上げは、ポップづくり。読み手として仕入れた情報をもとに、今度は書き手となってキャッチコピーへと仕立てる。息を吸ったら吐くように、読んだら書く。書いたら読む。その往還が編集だ。参加者めいめいにA5の色画用紙が配られた。200ページの新書をこの1枚へ。参加者は、互いにその本のアピールポイントを語り、簡潔な言葉に要約してゆく。15分後、ポスカとマッキーでスケッチされた本の横顔が並んだ。
完成した11人11色のポップは、さだ図書館で展示される。参加者が読んで書いた足跡が、まだ見ぬ誰かの道しるべとなる。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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