この香り、今だけ ― 九天手づくり柚子胡椒

2019/11/23(土)09:22
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 編集学校の九州支所「九天玄氣組」は柚子胡椒も仕立てる。組員の技を生かし、九州の四季に遊ぶ、年に一度の恒例企画である。会場と材料を提供するのは42[守]ヤバケイ万全教室で師範代をつとめた田中さつきだ。田中が住む大分県耶馬渓町は柚子胡椒発祥の地にほど近い。庭には柚子の木がある。10月23日、田中家には組員の崟(たかし)智子、内倉須磨子とその友人、品川未貴が集った。


 柚子胡椒の原料は柚子と青胡椒(青唐辛子)と塩である。柚子の枝にはかなり太い棘があり、触れてしまうと後々まで痛む。まだ青い実をいただくのだから、少々の犠牲は飲み込む。ちぎった柚子は軽く洗った後、おろし金を使って皮の部分を細かくおろす。さわやかな香りが一気に立ち上がる。塩漬けにしておいた青胡椒はミキサーにかける。ペースト状の青胡椒が放つ差すような刺激に涙をにじませながら、おろした柚子の皮とよく混ぜ合わせ、熱湯消毒をしたガラス瓶に詰めていく。この日は80瓶を仕上げた。できたての柚子胡椒は峻烈な味がする。


 今年の柚子は裏作。庭の柚子だけでは足りず、田中が知り合いに声をかけて町内の柚子山で調達した。青胡椒の塩漬けは事前に仕込んでおいた。手仕事に欠かせないおしゃべりの種とおやつは各自が持ち寄る。今年話題にのぼったのは本の読み聞かせの語り方、おやつは内倉手づくりのいちじくケーキだった。柚子胡椒づくりは、組員が近況と心づくしを交歓する機会にもなっている。


 3年前の九天10周年イベント「海峡三座」のお土産として好評を得た柚子胡椒「青郷(セイゴオ)」も、このようにしてつくられた。


  • 石井梨香

    編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。