■ 破の師範が語る
守が単語やセンテンスを遊ぶ場だとすれば、破は文章を遊ぶ場だ。2月5日に本楼とオンラインを結んで、卒門者限定「今こそ破!イシス旬然ツアー」が開催された。その第一幕にて教室の卒意を楽しんだ卒門者たち(こちらの記事をどうぞ)は、ほんのりとした緊張も湛えつつ、破の新井陽大師範の待つ第二幕に臨む。
■ 破稽古一歩前
破における2大文章稽古といえば、知文と物語である。アリストテレス賞としてキソイのお題にもなっている。文章を遊ぶために破稽古一歩前として選ばれた一冊は、氏田雄介『54字の物語』(PHP研究所)である。9マスx6行の原稿用紙につづられた世界一短いかもしれない短編小説は、編集の型が教室外でも使われることの格好の題材だ。
新井師範が笑みをたたえて画面を操作する。小さな原稿用紙に詰められた作品を映し出すと、指名された卒門者がリズミカルに54字の文章を読み上げた。おかしみがジワリとつたわる。周りの卒門者たちもクスリとほほえむ。
新井師範が文章に赤線を入れる。最初の作品にて示されたのは【地と図】だ。送られてきた「大きなエビ」の図に対してふたつの地のセンテンスが用意される。話し手は話題を変えようとしたが、「新種生命体のサンプル」は「大きなエビ」の【言い換え】になっている。
文末も効いている。研究所における「…のかね?」という口調が、話し手が博士であることや、言い換えに気づかないお茶目な性格を仄めかす。推敲された文章から、話し手の【らしさ】が滲み出る。
守の型を駆使することによって、たった54字であったとしても、インクのしみから蝶を感じるような物語を生み出せるのだ。
次の卒門者がすっきりした面持ちで2番目の作品を読み上げた。続けて新井師範が守の型で紐解くさまに、卒門者たちは守の教室での思いを重ねる。この作品にはどのような編集術が潜むだろうか。みなさんにも赤ペン片手に炙り出してみて欲しい。
■ 守稽古を通じて既に「破のタネ」を手にしている
卒門者は守のお題を通じて連想する方法に親しみ、番ボーなどを通じて単語やフレーズを推敲する方法を培ってきた。それでも卒門者が進破にあたって抱えるのは稽古がまだ不十分なのではという不安だ。
新井師範は断言する。「みなさんは既に破のタネを手にしている。破に進むために守を完璧に復習する必要はない。むしろ、破に進んでから振り返ることによって、守のお題の理解が一気に進むのだ。師範代とのラリーを楽しんでほしい」
檄を受け取った卒門者たちは、解きほぐされた守の型を抱えて、破の教室でも大いに遊び尽くすことだろう。勿論、つい先日に卒門を果たした48守の学衆たちも、アツアツの守の型をもって駆け抜けることができるはずだ。
旬然。今こそ破!
◎この記事を書いた新人記者◆畑勝之(はた・かつゆき/愛称ハタン)
イシスで何度も大きなキズを負ったとか負わないとか。ひとつだけ確実なことは、教室のやりとりが1362を記録した46破伝説の教室、アジール位相教室の師範代だったということ。今回のツアー師範代&ライターにも手を挙げた。あぁ、キズを求めてハタンは今日も行く。
◆画像作成/角山ジャイアン(※本文中の画像は、『54字の物語』(氏田雄介/PHP研究所)収録の作品を元に、改めて作成し直したものです)
角山祥道(ジャイアン)
編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。
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