3.11から10年目に何が現れているのか、見過ごしてはおけない、流れるままにはしておかない。
郡山在住の鈴木康代[守]学匠は、松岡校長の『3.11を読む』を共読した一夜をそう結んだ。『3.11を読む』は、2011年3月16日から書き継がれた千夜千冊番外録が一冊にまとめられたものだ。
「コロナ禍の今年だから新たなアプローチで3.11を語れるのではないか。」2020年11月7日、北は八戸から南は福岡まで、鈴木の呼びかけに即応した9人の姿がZOOM画面上に並んだ。
この10年間「ふくしま再生プロジェクトの会」などの活動を続けてきた鈴木。最近は福島を語る言葉がうまく伝わらず、「意味が剥がれ落ちるような感覚」を持っていた。
響読会の前に、鈴木は双葉町にできた東日本大震災・原子力災害のアーカイブ拠点施設である、伝承館を見てきた。「あの展示はあれでいいのか。」パンフレットで見たものが並んでいるだけ、事前に行政で手に入る情報しかない。そこには編集を待つ余白があった。だから、「わたしたちが手を動かしてやることがある。」
鈴木はWebカメラにiPhoneを近づけて、その日見た光景を映した。
立ち入り禁止区域に残された牛を連想させるオブジェを載せた車が伝承館の周りを走り、反原発を訴えていた。
双葉町は今年の3月に一部地区の避難指示が解除されるまで、全町が避難していた。結婚式場やしまむらやコメリの看板の下に、除染された土が黒や青の袋に詰められて積み上げられている。そのまわりでは、セイタカアワダチソウが10年間耕作されなかった田んぼを呑み込んでいた。
浜通りには福島イノベーション・コースト構想なる国家プロジェクトがあり、ロボットによる廃炉作業のための試験を行ったり、ドローンによる長距離荷物配送の世界初の実証実験を行ったりしている。帰宅困難区域にある双葉町の駅は、復興五輪と銘打った東京オリンピックの開会に合わせて開通予定だ。
鈴木の頭に浮かんだのは、ここはディストピアであり、「ずっとエリー湖だった」、という想いだ。
ベイトソンが言ったのは「都合の悪いものはすべてエリー湖に捨ててきたが、アメリカが今こうしてあるのは、つまりエリー湖のお陰ではないか。ゴミを引き受けたエリー湖がなくなったらどうするんだ」ということです。
(遊刊エディスト:【AIDA】KW File.02「エリー湖とDUST」より松岡校長の発言)
いたるところを占める黒や青の袋も、「永久」なのではないかという疑念の中で、「中間」貯蔵施設に収められ、目に入らないようにされていく。
鈴木はテレビ局や新聞社の取材を受けることがあるが、全国ネットや全国版の記者たちから「復興に向けていい記事を書かないといけない。悲観的な記事は書けない」と聞くという。
「東京の人が喜ぶような記事や話がほしいというフィルターがかかっているんですね」と原田淳子[破]学匠が応じた。
3.11と原発事故の物語が後腐れなく結ばれようとしている。それが鈴木が抗いたいことだ。どうして事故が起きたのか、どうしてここに原発があるのか、ここはどういう記憶を持つ土地なのか、歴史的現在に立っていることを忘れたくない。
「それぞれの問いを持ち寄って、アブダクションしていきたい。それを2、3回とやっていくうちに、なにかが見えてくるのではないか。伝承館と街宣車のような二項対立に陥らないように、2+1や日本という方法を用いたい」と響読会の冒頭で鈴木は話した。
意味が剥がれ落ちない言葉は、どこにあるのだろう。
言葉が指し示すイメージ、それがまったく共有できていないと感じる時、言葉がぽろぽろと肉を落として、骨だけとなってただの音のように感じる。そんな時、受け手は言葉が耳に入った瞬間にもうどこかで聞いたような気になって、像を結ばないまま右から左へ音を流している。
だから、共に読むこと。互いの間でじゅうぶんに言葉を響かせ、時間をかけてプロフィールを立ち上げること。言い換えたりそれぞれの連想を飛ばして、概念の境界を編集可能にすること。共に読むことに興をもつこと、記憶を興すこと。共で響で境で興のキョウ読。
災害や被害はわれわれの使う言葉に選択を迫るのだ。もっと本気でいうのなら、災害とはわれわれが「概念」の総点検に立ち会わされるということなのである。
(1459夜 河北新報社『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』)
あの日から10年が経とうとしている、そこにさしかかるものを感じる方は、ぜひ次回の響読を共に。
林 愛
編集的先達:山田詠美。日本語教師として香港に滞在経験もあるエディストライター。いまは主婦として、1歳の娘を編集工学的に観察することが日課になっている。千離衆、未知奥連所属。
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