中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
入伝式で事件は起きた。
「みなさんはまだ『守』です」
編集64技法を護符のように身にまとった林頭 吉村堅樹が言い放つ。本楼がざわついた。
それを聞いているのは、[破]を突破し、花伝道場の戸口に立った24名の入伝生。そして、彼らを師範代へと叩きあげるべく真剣を研ぐ15名の師範陣。吉村によれば、突破者も師範もどちらもが、守破離でいえば守のステータスだという。どういうことなのだろうか。
「守破離」とはもともと、江戸の茶人・川上不白が説いた芸道の成長プロセスのことである。不白はこう書いている。「弟子ハ守ヲ習尽」すれば「オノズト自身より破ル」。
吉村は問う。「[破]を終えて、なにか破れましたか」「ぼくは[守]の型をなにも使えていないということだけがわかりました」 自身の体験を無念そうに思い返していた。
イシスの[破]コースでは、世界を再表象することによって、これまで慣れ親しんでいた見方を破る。しかし、[守]を習い尽くすのとはわけが違うのだ。花目付 深谷もと佳も「[離]を出ても型がわからず、居残り稽古のつもりで花伝所に入った」と重ねた。
■守破離花、師範代までワンセット
イシスの[守]で学ぶのは、いわずもがな編集術の型である。その型を代行し、体現するのが編集学校の師範代だ。師範代としての稽古をしない限り、「編集道の守」をまっとうしたとは言えないのだ。
吉村は、赤チョークに持ち替え、黒板に書かれた守破離の文字をぐりぐりなぞる。
「編集道の守は、イシスの[守・破・離]と、師範代を終えるところまでです」
■先達の思いをのせた型を学ぶ
35[花]入伝式、冒頭挨拶で深谷は問いかけた。「私たちは、なぜ型を学ぶのでしょう」
吉村は「夢の共有のため」と応じた。型には先達の思いが載っている。型を継承することで、思いが共有できるからだ。1252夜『守破離の思想』にはこうある。「師弟相承のしくみのある稽古事は『夢の共有』をもたらす」
イシスというエディティング・ステートで、みながつねに編集状態であるためには、型とそれを継承する稽古が必要なのである。
「私も編集道の道中です」
吉村は入伝生と目線を同じくした。編集道の離は遠くに霞む。けれどたしかに、この花のむこうにあるはずだ。

写真:後藤由加里
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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