43[破]汁講レポ:師範代は寝ずに駆けつける

2020/01/16(木)15:44
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 12月中旬、転界ホログラム教室の辻井貴之師範代はイレギュラーな夜勤が続いていた。汁講には夜勤明けで神戸から東京に向かい、その日の夕方の新幹線で帰って、再び夜勤に臨むと言う。計画段階では夜まで残って学衆たちと交流を深める予定だった。
 「全てがうまくいけば1%ぐらいは免れる可能性もありますがほぼ避けられない状況です。無念。。」
 辻井師範代だけでなく、全員が残念がった。

 

 汁講当日の朝、辻井師範代から師範の大場宛に夜勤が長引いて1時間遅刻すると連絡が入った。メールには続きがあった。「昨晩の工程が予想以上にサクサク進んで今夜の夜勤が消えました!まさかの1%です」

 

 起きた、1%の奇跡!!

 

 教室にもあらためて連絡のメールが届き、その13分後には学衆から喜びの返信があった。転界ホログラム教室の名の通り、汁講のモードが転界した瞬間だった。

 

 ランチ会場のインド料理屋に1時間遅れで現れた辻井師範代は、新幹線でも寝ずに来たと言う。それでも少しも眠そうな素振りは見せず、学衆の徳応さんが坊主頭にたっぷりと汗を浮かべながら食べたカレーを、あっさりと平らげた。カレーの辛さよりも、教室の学衆と会えたことが何よりの目覚ましだったに違いない。ランチ後の編工研訪問では、稽古の進みの遅い学衆をイジる余裕も見せた。

 

 待望の夜の部は居酒屋に場を移し、転界ホログラム教室の参加者6名で本の交換会を行った。本のテーマは「教室に+1したい物語」。それぞれが持ち寄った本をシャッフルして順々に選び取っていった。最近短歌や俳句にはまっているという辻井師範代の手に渡った本は『北村薫のうた合わせ百人一首』(北村薫著、新潮社)。思わぬセレンディピティに師範代の頬が緩んだ。その辻井師範代からは『ユゴーの不思議な発明』(ブライアン・セルズニック著、アスペクト)が学衆の佐塚さんの手に渡り、佐塚さんからは『夏への扉』(ロバート・A. ハインライン著、早川書房)が徳応さんへ。それぞれが選んだ物語は1冊も被ることなく、多様なホログラムを描いた。

 

 その後も羅甸お侠教室も交えた編集談義は止まらず、怪しげなビル奥の中華料理での2次会へと続いた。そこにはもちろん辻井師範代の姿も。師範代の夜は長い。


2019年12月21日(土)
 「羅甸お侠教室、転界ホログラム教室」合同汁講
 ◎43[破]原田淳子学匠 八田英子律師
 ◎羅甸お侠教室 嶋本昌子師範代 渡辺高志師範
  参加学衆:神戸七郎、玉井佑治、林春薫、脇ゆかり(敬称略)
 ◎転界ホログラム教室 辻井貴之師範代 大場健太郎師範
  参加学衆:小林陸、佐塚琴音、徳應学、乗峯奈菜絵、山田立郎(敬称略)

  • 大場健太郎

    編集的先達:池澤夏樹
    若手師範代時代から将来を嘱望されていたが、SNS伝奏連の活動、二度目の破師範代のあと満を持して師範へ。更なる研鑽を続ける。知性派のITエンジニアでクラフトビール愛好家。校長からは発泡する「破」の書を贈られた。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025