44[破]AT物語・アリス大賞受賞対談―別院で自分の名前を見つけて―

2020/09/18(金)18:44
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 44[破]物語AT賞のアリス大賞に選ばれたのは、『黒い恐怖と白い手』。作者の一等ピノコロジー教室のMさんは、『エイリアン』を翻案し、東アフリカのある村を舞台にした物語を創り上げた。子供たちを犠牲にする施設に連れ込まれたアルビノの子供ソーヤ。彼の闇の中での闘いと脱出を状況描写とオノマトペを駆使し描いた作品である。

 対談が行われたのは、突破から2週間経った8月のおわりの土曜日。顔を合わせるのはオンライン汁講以来だが、久しぶりに会った友人同士のような和やか雰囲気の中、Mさんと一等ピノコロジー教室の神尾美由紀師範代が受賞作品への思いや[破]の稽古について語り合った。

 


《アリス大賞受賞対談》(学衆Mさん:M、神尾師範代:K)

 

●名前を見つけてドッキン!

 

K:突破、アリス大賞受賞おめでとうございます。別院の発表で、自分の名前を見つけた時、どんな風に感じましたか?

 

M:「あっ、私の名前が!」と、驚きました。教室のみんなの作品のように経験からにじみ出てくるものがなく、アリス的だとは思っていたんですけど、まさか大賞をいただくとは。嬉しかったです。

 

K:名前を見つけてドッキン、という感じだったんだ。ちなみに書き上げたときの手ごたえはどうだったのかな。

 

M:子供が殺されるような話は他にはないだろうと思っていたので、何かを突き抜けて、やったぞという感じはありました。出来栄えより、達成感の方が大きかったです。ただ、普段はゆっくりと物事を進めるタイプなので、もう少し詰めたいなぁと思いながら、最後は駆け足になってしまったのが心残りです。

 

K:確かに各章のタイトルも最後まで悩んでいたよね。Mさんの中でのこだわりポイントなどがあれば、教えて欲しいな。

 

 

●物語マザーでワクワク

 

M:稽古では【ワールドモデル】の吟味に力を入れました。5つ以上案を出し、物語として広がりのある翻案ができそうかどうかを検討したんです。最終的には子供が主人公の物語を書いてみようと決めて、今回の案にしました。大人に比べ、世界に対する経験や知識の少ない子供は、世界の捉え方が大人とは違うと思うんですね。見えるものや音をしっかりと描くことで、子供から見た世界や彼らが感じる恐怖を表現することに挑戦してみました。

 

K:やっぱり、見えるもの、聞こえるものを意識していたんだ。主人公の聴覚が鋭いというのもしっかりと伏線になっていたよね。視点の移動や【オノマペ】が臨場感を生んでいて、最初の【文体編集術】でやった【5つのカメラ】の稽古も、活かされていたんじゃないかな。

 

M:実は【文体編集術】は、分節を意識して書くのにかなり苦労しました。でも、【5つのカメラ】や映像を要約する【キーノート・エディティング】は大学で映像を専攻していたので、楽しんで取組めたかなと思います。確かに今回の物語の練習にもなっていますね。加えて、物語のシーンを考えるときは、絵コンテも描きなから回答したりしました。絵はあまり上手じゃないんで、人物はマッチ棒みたいな簡単なものなんですけど。

 

K:それで、シーンが目に浮かぶように描けていたんだ。物語を方法的につくるのは、今回初めてだったと思うけど、やってみてどう感じたかな。

 

M:最初は翻案ということを勘違いしていたこともあって、映画の【物語マザー】を意識しながら物語を考えるのが、窮屈だったんですけど、神尾師範代の指南を受けて理解が深まってくると、反対にワクワク面白く書けるようになっていったと思います。

 

K:よかったぁ。Mさんも型やフレームが定まることで、生まれてくる自由さに気づいたんだね。その中で自由に発想を膨らませることができたのが今回の作品につながったんだと思うよ。そうそう、AT賞ではエントリーした作品に講評が付くんだけど、Mさんには小路師範から講評があったよね。

 

M:視覚や聴覚を言葉で表現することに注力して書いたので、そこを評価してもらったのはとても嬉しかったです。また、ワールドモデルをもっと明示した方ががよいという言葉も納得でした。それをはっきりと示さなかったのは、伏せの効果を狙ったということもあるのですけど、一方で描き切るための情報を集められなかったんですね。アドバイスをいただいたように、これからは、アリス的な部分だけでなく、テレス的な部分も深めていきたいなと思っています。また、自分の文章に講評をいただくのは卒論以来なのですけど、卒論に比べてイシス編集学校ではお互いに書いている途中も見せ合いながら、今回の講評のように他の指導陣からも、アドバイスや評価がもらえるというのがいいなぁと思います。いろんな視点を持つという学びにつながっていると感じています。

 


●タラーッとドキドキの思い出

 

K:学びということでは、突破した今、[破]について、思うことはあるかな。[守]を終えた後、進破を決めたキッカケなども、聞かせて欲しいなぁ。

 

M:[破]の受講なんですけど、[守]を終え自分の中では一山越えたという感覚もあり、受講案内を見ても圧倒的に大変そうなので、最初はちょっと躊躇しました。でも、どうせやるなら、もう少しやった方が得るモノが大きいはずと思い、思い切って受講したんです。

 

K:その結果、見事アリス大賞。受講してよかったよね。それ以外でも、得たモノは大きかったですか。

 

M:大きかったです。モノゴトの捉え方や見方のモノサシが増えました。また、モノサシを元に分節化することや文章に再構成していく方法が、最初の頃に比べると随分変わったと感じています。とはいえ、最初の1、2番はかなり手こずりました。師範代にビシッと指摘され、エッと戸惑ったんですけど、ここで踏ん張らないとこの先が大変だと思い直し、タラーッと冷汗をかきながら、何度も再回答したのがよかったと思います。

 

K:そう、お互い随分粘って稽古を繰り返したよね。実は、指南する側も最初は学衆さん一人ひとりのキャラが見えないので、ビシッと伝えるのも結構ドキドキだったんだよね。なるほど、Mさんはそんな風に考えて、取組んでいたんだ。

 

M:教室では、一番年下だったので、みなさんの稽古に向かう姿勢にも刺激されました。神尾師範代の指南も丁寧で、しっかりと付き合っていただき、途中からは肩の力が抜けて稽古を楽しめるようになったと、今振り返って思います。

 

K:そう感じてもらえてうれしいなぁ。ぜひ、ピノコロジストとして、[破]で得たモノをこれからもいろんな場面で活かしていってくださいね。


  • きたはらひでお

    編集的先達:ミハイル・ブルガーコフ
    数々の師範代を送り出してきた花伝所の翁から破の師範の中核へ。創世期からイシスを支え続ける名伯楽。リュックサック通勤とマラソンで稽古を続ける身体編集にも余念がない、書物を愛する読豪で三冊屋エディストでもある。