ある者は、クリスマス仕様のうまい棒30本を胸に抱え、ある者は、新時代の味噌汁について構想を語る。イネの免疫システムがレクチャーされるすぐ横で、ホルシュタイン=ゴットルプ=ロマノフとロシア語の呪文が踊っている。
ここは、近畿大学中央図書館ビブリオシアター。12月23日(月)18時半、5限目の授業を終えた近大生たちがミーティングルームにぞくぞくと集まる。経済学部から薬学部まで、専攻も学年もバラバラな12名の共通点は、編集学校の学衆ということ。この日は近大生の学衆が初めて顔を合わせる「交流会&稽古DAY」だった。
編集学校と近畿大学の縁は深い。2017年にオープンしたこの新図書館は、松岡正剛監修。イシス編集学校の指導陣も選本から設営まで泊まり込みで作業し、心血を注いだ一大ミュージアムである。図書館を利用する学生にも編集工学を知ってもらうべく、2018年秋、42[守]より近大生の団体受講が始まった。43[守]からは、近大と編集学校のつなぎ役として「近大番」が発足。今期44[守]は、大阪在住の川野貴志師範、山根尚子師範、梅澤奈央師範代が任にあたる。
今日の会場は「ACT」と呼ばれるガラス張りのミーティングルーム。川野が7名の[守]受講生の感想を引き出して、イベントは始まった。
「こんなに年齢層の広い学衆がいるとは思わなかった」
「いろんな人の考えに触れることで、自分の見方も変わった気がする」
「日常のすべてが編集だと気づいた」
用法3へ差し掛かった時点でこれだけの発見があることに、稽古の充実がうかがえる。
切実な問いも現れた。
「どうやったら稽古が続けられますか」
川野は即座に応える。
「ちょっとしたことです。ひとつは、稽古仲間を作ること」
多くの学衆にとっては、汁講で師範代や教室仲間に会うことが稽古のモチベーションとなる。だが、関西在住の学生にとって、東京での汁講参加は難しい。そこで、近大学衆同士がつながるきっかけになればと、このイベントは企画されたのだった。
ここで生まれるのは、横のつながりだけでない。彼らの声をうなずきながら聞くのは、現在43[破]受講中の先達近大生5名。代表として、近大ゼロテン編集室で活躍中の川添陸さんが、自身の経験を語る。
「編集って、日々の習慣ですよね」
「道を歩いていても、ポスターや看板を見て情報を分節化してます」
ストイックな姿勢に、ほうぼうからため息が漏れた。
「[破]では、[守]で学んだ型を使えるから、より実践的」
ニヤリと口元をゆるめ、卒門のその先を匂わせる。
稽古の意味を互いに確認したところで、いよいよ手を動かしていく。学衆たちは、持参したパソコンをひらいて、その場で稽古を始める。3人の近大番は、それぞれが学衆のとなりに座って口頭指南を繰り出す。先達近大生も自分の回答を披露し、後輩を鼓舞する。瞬く間の40分間。近大ビブリオシアターで作られた回答は、EditCafe上の7つの教室に届けられた。
このプロジェクトを取り仕切る近大番長は、橋本英人参丞。このイベントは原則参加必須のため、参加可否の表明がない場合は橋本から電話連絡が入る。しかし、緊張は無用。
橋本は、27[守]の学衆。稽古開始早々に姿をくらまし、ラスト1週間で20題を連続回答して卒門。ロンドン五輪開催直後の2012年当時、その驚異的な追い上げは「ウサイン・ボルトがいるぞ!」と教室中を沸かせた。ボルトと呼ばれた男は、稽古から遠のく学衆の気持ちを誰よりも理解している。
次回の開催予定は、2020年1月9日(木)18:30~@ビブリオシアター内ACT114。
近大生のペンケースは、お猿さん。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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