「すごい比喩」の歌――オンライン汁講編集ワークにご招待

2021/01/09(土)10:30
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 チェッカーズフラッグのように、本楼の書棚のように、陽気な幽霊のように、漫画喫茶の個室のように、蜜柑あるコタツのように、トイレの鏡のように、泉屋のクッキーのように……。

 

 いったい何のことだろう、と思ったら次の編集稽古にさあ、トライです。空欄にどんな比喩が思い浮かぶでしょうか?


 ○○○○○○○○のように集まって
           我ら画面に密を楽しむ

 


 これはウェブミーティングシステムについての俵万智さんの作品をお借りしたワークです。元歌はこちらです。


 トランプの絵柄のように集まって
           我ら画面に密を楽しむ

                   俵万智『未来のサイズ』

 

 画面に四角い枠が並ぶ様子はまさにトランプ。カードの映り込む絵柄は多様多彩です。そしてトランプ大統領がいた時代にそんなこともあったなあと連想するきっかけにもなるでしょう。

 ……と、下手な解説は野暮になってしまうのでこの辺りにします。

 


 以上は12月20日、45[破]分針タンブール教室(天野陽子師範代)が開催したオンライン汁講の編集ワークを抜粋したものです。歌人としての顔も持つ師範代が一座を取り仕切りました。

 

▲天野陽子師範代


 参加メンバーは学衆、師範代・師範(井田昌彦、筆者)に加えて、45[破]原田淳子学匠、相部礼子番匠、イシス編集学校学林局から八田英子律師、遊刊エディスト編集部の上杉公志さん、後藤由加里さんです。講座のウチソトをまたぐ一座でした。


 ワーク本番の段取りは次の通りです。まず、空欄がついた状態の歌を見せ、次に元歌の全体を映し出します。

 「トランプの絵柄」が明かされて、これ以上の比喩はあるだろうか、と汁講参加者が思ったところで編集稽古の始まりです。

 

  「空欄に入る比喩を考えてみましょう」
  「余力があれば本歌取りにもレッツ・チャレンジ」

 

 天野師範代の捌きのもと、すかさず、学衆・指導陣の別なく画面の右横にあるチャット欄に回答を連打、そして乱打。冒頭の比喩群はそのごく一部です。

 回答に合わせて「浮かんだイメージから反射的に回答した」「前の回答を受けて連想した」「私もイズミヤのクッキーが浮かんだ」などその場で振り返りやフィードバックが交わされて次の回答を促します。振り返りに「やっぱりワークはおもしろい!」との感想がありました。


 あらためてワークの編集プロセスをリバースエンジニアリングしてみます。はじめに空白・カッコを提示してメンバーの注意を促す。次に元歌を見せて、ではあなたならどんな比喩で表すでしょうか?、と問う。
 いわば「答え(Answer)」を先に置いて、その上で「問い(Question)」そして「編集(Edit)」を起こすことを狙いにしています。

 

 つまり与えられた世界の再・編集、
 Answer → Question → Edit という要領です。

 

 物語稽古に肖れば、自分が見出した比喩(世界の想定、ワールドモデル)が元の作品に対する“翻案”として立ち上がります。

(参考お題【[破]お題3-03番:物語の「翻案の方針」を決定する】)

 

◆◆◆

 

 

 ひるがえって、ワークのネーミングは「『すごい比喩』の歌」。

 前置きに編集工学における比喩の位置づけと短歌における比喩の位置づけを合わせ・重ねて解説し、実際の歌を用いて「すごい比喩」をいくつか例示していきました。

 

 以下にそのうちから数首を紹介します。

 下線を引いた部分にどんな言葉が入るか想像して詠んでみてください。当日の雰囲気を少しでも感じてもらえたら、またこのお題自体を楽しんでもらえたら成功です。

(元歌は本文のおわりにあります。)

 


  _となる途中のわれのかたわらを
           そっとながれている芹の川

 

 

  ___を飲み込んだような腹さすり
           教師のひとり君が代歌わず

 

 

  次々と仲間に鞄持たされて
           途方に暮るる生徒 __

 

 

  ____のやうに演歌をまき散らし

           銀のトラック那智の浜越ゆ

 

 

 

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【元歌】

 

  石となる途中のわれのかたわらを
           そっとながれている芹の川

                 渡辺松男『自転車の籠の豚』

 


  地球儀を飲み込んだような腹さすり
           教師のひとり君が代歌わず

                   染野太朗『あの日の海』

 


  次々と仲間に鞄持たされて
           途方に暮るる生徒 沖縄

                   佐藤モニカ『夏の領域』

 


  スプレーのやうに演歌をまき散らし
           銀のトラック那智の浜越ゆ

                 小黒世茂『やつとこどつこ』


  • 井田昌彦

    編集的先達:寺田寅彦。怒涛の「離」を涼しい顔で典離し、書かれていないお題までやってしまった世界知の具現者。イシス婚で授かった息子にはグーテンベルク博物館で英才教育。聞き取れなさではイシスで一二を争うウィスパー・ボイスの持ち主。

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