神話がルークを生んだ!物語づくりはSTAR WARSに学べ【46破 物語 課題映画リスト】

2021/07/04(日)13:03
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■社会を蘇らせる物語の洪水

 

白川静は言った。「洪水がおこらなかったら、文字も文化もおこらなかった」 松岡正剛は言う。グローバリズムや新自由主義なる単一の物語に縛られた世の中には、「物語の洪水がおこるべきだ」と。

 

イシス編集学校の[破]コースでは、物語の濁流が音を立てている。46[破]は6月半ばから、カリキュラムの3番目にあたる物語編集術の稽古に突入した。学衆たちは、7月11日(日)の締切めがけて3000字の物語に取り掛かっている。そうは言っても、提出用の原稿用紙はまだまっさら。学衆は稽古が始まってから3週間、作品を書かずに何をしているのか。これが松岡の仕掛けだった。学衆は自身の作品を書くまえに、ただひたすら「原作」を読みこんでいるのだ。

 

物語をつくるということは、奔放なイマジネーションを好き勝手遊ばせることではない。物語という様式にあわせて、情報を編集することだ。物語るのは、誰かに思いを伝えるため。人々が古代から紡いできた物語は、時を経て「型としての物語」に達した。いわば、「物語マザー(母型)」は、人類がコミュニケーションをとるうえでの普遍的構造として、我々が具えている仕組みなのである。イシスの[破]での稽古は、原作から物語マザーを読み取り、そのマザーを生かして新たな作品へと昇華させることに眼目がある。

 

 

■人類普遍の物語マザーを母胎とせよ

 

物語マザーの翻案、これは『スター・ウォーズ』の出自を考えればわかりやすい。多くの人が知るように、かの映画シリーズは、ジョージ・ルーカスが大学で学んだという神話の構造が適用されている。ルーカスが使った物語マザーは、神話のなかでも「英雄伝説」の型。ごく単純に言えば、(1)セパレーション (2)イニシエーション (3)リターンの三段階構造である。詳しくは、ルーカスに講義したジョセフ・キャンベルの『千の顔をもつ英雄』を読まれたい。

 

ゼウスから桃太郎、ルーク・スカイウォーカーに至るまで、古今東西、伝説に登場する英雄はみな、この三段階を経て英雄になった。古代エジプト伝説で有名な女神イシスの名を冠する編集学校では、キャンベルの三段階構造をさらに細かい五段階構造にして物語の型抜きを行う。

学衆たちは課題映画のなかから、あたかも生贄から骨格だけを取り出すように、丹念に肉や皮を剥ぐ。物語をつくるのはそのあとだ。取り上げたあばら骨に新たに肉付けをし、息を吹き込み、服を着せてやるのだ。そうしてルークは認知症の老婦人にもなれば、イーサン・ハントが千利休の危機を救う商家の奉公人へと生まれ変わる。女神イシスが司るのは再生。換骨奪胎こそが、物語の干ばつにあえぐ世が待ちわびた雨乞いの秘術なのである。

 

 


■イシス編集学校[破]コース 物語編集術〈課題映画5選〉

 

学衆に捧げられた課題映画は以下の5作品。どれもシリーズ化され、ワールドモデルという世界構造が明確なものが選定されている。師範代角山祥道(ジャイアン対角線教室)にならい、監督や役者の名とともに、2時間の映画をひとことに要約したキャッチコピーを添えて紹介しよう。

 

●スター・ウォーズ「エピソード4-新たなる希望」

 公開年◎1977年
 監 督◎ジョージ・ルーカス
 出 演◎マーク・ハミル、ハリソン・フォード
 音 楽◎ジョン・ウィリアムズ

 A long time ago in a galaxy far, far away…
 遠い昔、はるかかなたの銀河系で 

 

●男はつらいよ「寅次郎忘れな草」(第11作)

 公開年◎1973年夏(シリーズ第11作)
 監 督◎山田洋次
 出 演◎渥美清、浅丘ルリ子
 音 楽◎山本直純

 ほら、逢っている時は何とも思わねえけど
 別れた後で 妙に思い出すひとがいますね
 …そういう女でしたよ あれは


●ミッション・インポッシブル1

 公開年◎1996年
 監 督◎ブライアン・デ・パルマ
 出 演◎トム・クルーズ、ジョン・ヴォイト
 音 楽◎ダニー・エルフマン

 不可能を可能にする
 

●クレヨンしんちゃん「ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者」

 公開年◎2008年
 監 督◎本郷みつる
  声 ◎矢島晶子、ならはしみき
 主題歌◎DJ OZMA「人気者でいこう!」

選ばれし“おバカ”の伝説と冒険が始まる!

 

●エイリアン1

 公開年◎1979年
 監 督◎リドリー・スコット
 出 演◎トム・スケリット、シガニー・ウィーバー
 音 楽◎ジェリー・ゴールドスミス

宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない

 


※参考

・『物語編集術』監修 松岡正剛 構成 イシス編集学校(ダイヤモンド社、2008年)

・『知の編集工学』松岡正剛(朝日文庫、2001年)

・704夜『千の顔をもつ英雄』ジョセフ・キャンベル https://1000ya.isis.ne.jp/0704.html

・イシス編集学校内 

 校長室方庵 [108] 082「分節モジュール物語」(2005/5/30)
 校長室方案 [41] 038「マーマレードとマーガリン」【第2回AT賞:物語(2002/06/28)

 

写真:野嶋真帆

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。