がらんどうのスタジアムに、1824台のドローンが浮かぶ。東京オリンピックが嘘のように始まった。テレビは、外出を避けよと警告しながら、炎天下に立たされるジョコビッチを映し出す。開会式では「誰のための、何のための大会なのか」とNHKアナウンサーが大衆の疑問を代弁する。
■ クライアントは誰なのか、抱える不足はなんなのか
誰のためか。これが曲者である。46[破]で現在走行中のプランニング編集術は、「ハイパーミュージアム」を作りあげる課題である。架空の企画とはいえ、プランナーとしての学衆が好き勝手に空想するものではない。あくまで、クライアントの困りごとを解決することが要となる。
松岡正剛のもとへ持ち込まれるのは、「なにかしなければいけないのはわかるが、なにをしてよいのか見当もつかない」というという茫漠とした、しかし切実な不安だからだ。松岡がどんなプロジェクトを手掛けてきたか、セイゴオちゃんねる(https://seigowchannel-neo.com/works)にリストアップされている。
たとえば、2010年。平城遷都1300年を迎える奈良県からの依頼の際には、文字どおり奈良中を走りまわり、与件を調べあげた。奈良県のみならず、アジア全体の本来と将来を見据える「NARASIA」シリーズに結実した。
また、電電公社がNTTに生まれ変わるタイミングでは、電話100年を記念したプロジェクトとして「情報」に目をつけた。象形文字から人工知能にいたるまで人類のコミュニケーション技術の歴史を編集して、年表化。それが1990年に出版された『情報の歴史』である。
松岡のやりかたは、クライアントさえもわかっていない鍵穴を見つけ、鍵をプランとして提示すること。そうして、直面している壁ごと突破するのだ。
■ プランニングは物語
クライアントを旅立たせるために
46[破]のお題改編において、中村まさとし(評匠)はクライアントの設定方法に隠し包丁を入れた。それは、クライアントを「組織」ではなく、社長や知事などの「個人として設定してください」との一文だ。そのほうが、クライアントの抱える切実さが立ち現れるからだ。
物語編集術でキャラクターを立ち上げたように、クライアントの風貌や語り口まで人物像をイメージする。キャラクターが抱える真の目的を見つけだせれば、物語は自動的に動き出す。
学衆がクライアントとして連れてきたのは、「紙の書籍が売れず、読まれないことを嘆く古書店の店主」(あたりめ乱射教室学衆F)や、「中堅の国際協力NGOの代表でヴァイオリン奏者」(互次元カフェ教室学衆H)など個性派ぞろい。
「プランニングはクライアントにとっての冒険の旅」「そのストーリーを組むのがプランナー」
中村は、別院にて、物語編集術と重ねながらプランニングのヒントを与えた。
■ 稽古から、実社会の編集へ
編集術を手にすれば、世の中のプランニングを松岡に近い視点で語れるようになる。イシス内では、東京五輪の開会式についても、「編集的な観点で言えば」とさまざまなコメントがあがった。
「開会式は、結局キャラクター編集で乗り切った」([破]学匠 原田淳子)
「個々のシーンはいいところもあったが、ワールドモデルが描ききれておらず、アトサキがぜんぜん繋がっていなかった。なぜ海老蔵と上原ひろみのセットなのか、多様性を主張するにしてもやり方があったはず」(多読冊師 浅羽登志也)
絶賛か炎上か、感情的な反応ではなく、あくまで編集的に物事を扱う。この姿勢が社会を編集的自由へ向かわせる。
オリンピックを尻目に、後藤陽子(ゆかりカウンター教室師範代)はつぶやいた。「皆さんのアタマの中では編集稽古のいろんな種目が既に開催されているようで、こちらのほうが面白そうです」
閉会式は、2週間後の8月8日。奇しくも、46[破]の突破期限である。
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松岡正剛のハイパー性をどう積み上げるか、小倉加奈子の考察は必見。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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