イシス寄席・用法語り――48[守]伝習座

2021/12/08(水)08:37
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 11月27日、2年振りに本楼でリアル開催された48[守]伝習座。ここでは師範が講師となって、師範代たちにさまざまなモノを手渡していく。用法4の「用法語り」を担当した師範の角山が、そこでつたえたかったこととは何か。
 えー、せっかくなので着物に着替えて、扇子片手に一席伺います。

 

  ◎  ◎  ◎

 

 えェ、オリンピックのインタビューなんかァみておりますと、アナウンサーという連中はなんであんなしょーもないことを聞くんでしょうな。


 アナウンサー「金メダルを獲得して、どんなお気持ちですか?」
 選手「金メダルを獲得できてとても嬉しいです」


 嬉しいに決まってる。聞くだけ野暮ってェもんです。
 ところがこの野暮な質問が世の中に蔓延してる。親が子に「宿題したの?」と聞く。えェ、してないから聞いている。当然返ってくる答えもわかってる。「今からする」ってね。これは質問でなくてただの小言です。国会中継なんぞをみていましても、あれですな、最初からなんと答えるかわかっていて聞いている。茶番です。
 問う側も問われる側も「答え」がわかってる質問を、これ、「愚問」といいます。最初から答えが分かっているから、場がこれっぽっちも動かない。交わし合いも創発もおこらない。
 動かしたくないならいいんですよ? 予定調和で横並び、お手々繋いでチイパッパ、仲良しごっこをしてりゃァいい。
 でもそれって面白いの? というのが、これ、あたくしの「問い」であります。

 

 じゃあどうすンの、てェ話なわけですが、それが守の用法4「きめる/つたえる」、というわけです。これ、言葉のまんま受け取って、「自分を表現するぜ!」なんて力んじゃいけませんぜ。自己表現なんてェもんは脇に置いといて、「きめるって何?」「つたえるって何?」と問わなきゃなりません。
 簡単に言ってしまえば、「きめる」とは「モードをキメる」ってェことです。手持ちの服が少ないのが玉に瑕ですが、あたしだって時と場に応じて着替えます。文章だって服とおんなじ。キメキメの勝負服に身を包めば気分もアゲアゲでしょ? 文章だって着替えた途端に、自ずと中身も言葉も変わってくる。
「つたえる」っていうのは少々ややこしいので、虎の巻を持ち出してみましょう。

 

《どんな情報内容であれ、それを子どもが聞いたのか、病人が知ったのか、またその情報内容が誰に伝えられるかによって最後の編集の仕上げは変わっていくべきなのである。それをここでは「語り手の突出」とよんでいる》(『知の編集術』)

 

語り手の突出」とは、イシスの秘伝・編集八段錦の最後を飾る言葉ですが、「誰に」が決まると、語り手が突出すると書いてある。いいです? 「オレが!」じゃないんです。「誰に?」なんです。ここに「つたえる」のコツがある。あたしとあなたがいて、その「あいだ」も丸っと含めて「語り手が突出」するというわけです。

 

 用法4は、9つのお題でできておりますが、乱暴にまとめてしまえば、これ、「問う技法」を学んでるんです。あたしとあなたの「あいだ」を「問い」で「つなぐ・ゆさぶる・ずらす」稽古をしているってェわけです。問う側も問われる側も答えを知らない「問い」で、ツルツルの表面をケバケバさせようてェわけです。

 

 表現するとは 問う ことである。

 

 箴言っぽくキメればこういうことになりましょう。
 さらに舶来の言葉でキメてみれば、こうなります。

 

イシスの稽古とは Interview することである。

 

Inter」はお馴染みですな。インタースコアのインター。「相互に」「あいだ」という意味です。では「view」は? 見る? そう、そうですな。でも「見る」だけじゃない。辞書を引っ張り出すと、「調べる」「考える」「見つける」「思い巡らす」と書いてある。
 つまり、インタビューとは、相互に思いを巡らす、お互いに考える、ということだったんですな。決して一方通行じゃァない。行き来がある。ここには「問い」の交わしあいがある。エディティング・モデルの交換がある。そこで初めて、「きめる」「つたえる」が起こってくるというわけであります。

 

 さあ、用法4を手に、お互いにインタビューしてくださいな。場がビューっと動きます。
 えー、おあとがよろしいようで。

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025