〈突破者が書く!第5弾〉編集道という旅路は続いていく~忘れない限り永遠に【78感門】(山田環)

2022/03/31(木)18:00
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 今日は一年の始まりとされている春分の日。頼りない日差しのもと、肌寒く感じる。
 さあ、「感門之盟」という名の劇場が開幕した。画面越しにバニー師範、堀田師範代とお会いしつつも、これからその劇場に足を踏み入れるべく家を出た。普段だったらきっと引き受けないであろうインタビューに二つ返事でお答えしたのは、花伝所の田中所長からお声掛けいただいたこと、そして師範と師範代に直接お礼を伝えたかったからだ。引き受けたものの、辺りが薄暗くなる中、心細さも強くなっていく。黒い建物に足を踏み入れるべく中を覗き込むと、中から同じように人がのぞいている。


 扉を開けると、所せましと置かれた本や物たちが生きているかのように迫ってくる。ここが本楼。想像していたよりも小さく感じた。それもそのはず、人の波が幾重にも連なり、天井いっぱいまで本で埋もれている。おもちゃ箱をひっくり返したかのような不思議な空間だ。ここが感門之盟の舞台。お互いを讃えあい、励ましあう。歓喜の輪がこだまし、感情の波があちこちに生まれる。空間そのものが生きているように思えた。
 目を泳がしていくと、斜め横にアイヌの衣装に身を包んだ堀田師範代がいる。ようやくお会いできた。突破証とセッケンをいただく。ああ、バニー師範も声をかけてくださった。花伝所のインタビューの出番が来た。用意していた質問を全部忘れてしまい、とっさに学衆と師範代の違いを質問する。田中所長は「学衆も師範代も学び続けていくのよ」とおっしゃった。どこにいても何をしても、編集を忘れない限り、学びという旅は続いていく。

 

 最後の松岡校長による校話。同じ空間に居合わせるこの瞬間を噛みしめる。ふと周りを見渡すと、皆がメモを用意し、一つも聞き逃さないよう耳を傾けていた。貪欲で熱狂的。どんなに素敵な言葉を並べても追いつかないぐらい、人を魅了する何かがここにはある。ふと思う「私もいつかここに戻ってこれるだろうか」。
 お二人に見送られながら、玄関の扉を開けると、先ほどまでの熱気がうそのように静まり返っていた。グっと力を入れて歩きだした道は夜空の下で輝いて見えた。あれは日常に突如現れる別世界だったのかもしれない。だが、私は確かにその扉を開けたのだ。

 

文:山田環(47[破]万事セッケン教室)

スクリーンショット:畠山義秀(47[破]万事セッケン教室)

編集:師範代 堀田幸義、師範 新井陽大(47[破]万事セッケン教室)


 

▼番記者梅澤コメント

本楼にはじめて足を踏み入れた人は、いちように驚きます。こんな場所があったのか。本楼がもつ力に、校長の目論見どおり翻弄されるわけですが、そのときの感覚をここまでみずみずしく書き表したのは山田さんが初めてではないでしょうか。 [破]で学ぶ文体編集術の型を見事につかいこなして、《足のカメラ》や《心のカメラ》《虫の目カメラ》などを複層的に連動させた創文ができました。紀行文のお手本にしたいほどの出来栄えです。
豪徳寺の駅を歩いて、ガラス戸から本楼をおずおずと覗き、未知への一歩を踏み出すとき。扉を開けて、壁一面の本や物に圧倒される目眩のような興奮。そして、本楼に満ちみちているイシス人たちの生命感。花伝インタビューコーナーへの登壇をメインディッシュに、本楼での感門体験を前菜からフルコースで仕立ててくださいました。Zoom参加だった学衆さんたちにはヨダレのとまらないレポートです。マイクをむけられた山田さんの決定的瞬間は、教室仲間の畠山さんが切り撮りました。スクリーンショットとは思えない高画質な画像と、バンジーズから注意のカーソルをそらさない情熱と集中力にも乾杯です。
 
田中晶子所長は山田さんの記事に喜び、「ぜひ師範代になっていただきたい」と腕まくりする。と同時に、インタビューのさいに言いそびれた花の極意を明かした。「『学衆も師範代も学び続ける』と言いましたが、学衆時代の編集稽古が第一段階で、師範代として指南編集するのが第二段階の学びなんです。この学び方はかなり違っていて、指南で教室を編集しているように見えて、じつは逆に師範代が編集されているというのがISISマジックです」 あの日、イシスという異界の扉を開けてしまった山田さん、ISISマジックの使い手になる日もそう遠くありません。

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。