〈突破者が書く!第2弾〉【79感門】幼心を再編集する全然アート(中川治靖)

2022/09/21(水)07:54
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 遅れて繋いだ突破後のzoom汁講、最初に耳に入ったのは山本ユキ師範代の檄だった。

 

 クロニクル番外お題として今期新登場の「全然アートなわたし」へのエントリー者が少ないことが原因のようだ。普段は優しい先生が木のモノサシで黒板をビシッと叩き睨みを効かせる。学衆仲間二人(河野智寿、一倉広美)は提出済なので、私ひとりが教壇の横に背筋を真っすぐにして立っている。目をキョトキョトしながら「ごめんなさい。僕、書きます」と心の中でつぶやいた。そう、私は女性にめっぽう弱いのだ。

 

 女性に弱い性分は母の影響が強い。仕事でいつも疲れている母。イライラをぶつけてくる母。そんな母から逃れる術はひとつだけ。大人しく従うフリ。学級委員、学芸会での主役、選抜駅伝も母に止められたがやり遂げた。しかし「あなたには無理。変わってもらいなさい」と応援されず、心に寂しさが影を落とす。それゆえ、世間で出会う優しい女性、応援してくれる女性にすこぶる弱くなったのだ。

 

 ユキ師範代の目の奥にある「あなたにはできる。がんばれ」という声に背中を押されてできた「全然アートなわたし」。それは私を憧れの本楼に導いてくれた地図でもあった。ユキ師範代は仕立ての女神だったのだ。

 

 振り返ると、高校受験、バイト先、〇〇の学校で私は様々な女神に助けられてきた。お題への回答にも所々に女性がキーになっていた。「全然アートなわたし」によって幼心が再編集されていく。次は花伝所。どんな女神に出会うのか楽しみだ。

 

 記事:    中川治靖(48[破]オリーブ・ビリーブ教室) 
 編集:師範代 山本ユキ(48[破]オリーブ・ビリーブ教室)

    師範  華岡晃生

  • 華岡晃生

    編集的先達:張仲景。研修医時代、講座費用を捻出できず、ローンを組んで花伝所入門。師範代、離を経て、[破]師範に。金沢のエディットドクターKとして、西洋医学のみならず漢方にも造詣が深い。趣味は伝建地区巡り。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025