メタモルフォーゼする[破]文体編集術

2022/10/04(火)12:04
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[破]の文体編集術が変わる。

 

といってもお題が改編されるわけではない。文体編集術と言えば、[破]の濃密稽古の幕開けを告げる編集術。[守]に全学衆が集う「番ボー」があるように、[破]にもアリスとテレス賞(AT賞)と呼ばれる編集祭が2回ある。文体編集術の稽古を総動員して取り組む、校長である松岡正剛の編集術に肖った「セイゴオ知文術」がそのひとつだ。

 

「セイゴオ知文術」とは、本と世界、そして読み手である自分をインタースコアさせる格別な本の紹介である。千夜で校長が用いる文体術から、取り上げる本や著者のモードを編集する「モード文体術」、知識情報を的確に活用して編集する「知文術」の2つを合わせた編集術となっている。

 

学衆に、校長の言う“よくよく練られた逸脱”となるハイパーな知文に向かってほしい。その願いから、10月1日(土)の伝習座では、2人の師範+2人の評匠による文体編集術の特別リレー講義が行われた。それぞれの数寄や得意が存分に活かされた、これまでとは異質なレクチャーに瞬きすら惜しい時間となった。

 

【文体編集術】

編集稽古1-01番:創文の基礎~5W1H活用術
    1-02番:創文の基礎~いじりみよ
    1-03番:キーノート・エディティング

 

▲自らPCで軽やかに画面操作をしつつレクチャーを進める竹川師範。

 

占い師という裏の顔を持つIT技術者、師範の竹川智子は、文体編集術前半3稽古のレクチャーを担当。ハイパーへの道も一歩から、まずは創文の基礎となる短文の書き方をいかに指南するか。「5W1H活用術」のレクチャーでは、回答を極限まで分節化し、学衆の理解を深め再回答で文章がみるみるブラッシュアップされる事例が示された。事例番号と行数からなる数字でメモリを打ちこんだ資料で、学衆にハイパー知文への一歩を踏み出させる指南の方法が手渡された。

 

編集稽古1-04番:インタビュー編集術
    1-05番:モード文体術
    1-06番:「5つのカメラ」文体術

▲歌人天野の言葉のハコビとホドにはムダがない。

 

師範の天野陽子は公共図書館長にして「りとむ短歌会」所属の歌人である。「『5つのカメラ』文体術」の説明で魅せた。イシスの「カメラ」は、足・目・心・鳥・虫の5つのカメラだが、天野は「目のカメラは心も写すか?」と問いを立てお題の深層へ。短歌では上の句(五七五)は実際に見たものを伝える「目のカメラ」を、下の句(七七)は心情を表す「心のカメラ」が使われることが多いが、目が捉えた場面だけで心を表す場合もある。短歌の方法を指南にカサねると回答の読みが変わる。歌人天野の秘伝である。

 

編集稽古1-07番:セイゴオ知文術

三度の飯より本が好き、そんな読書アディクトの評匠2人が、師範代のハイパー指南のために立ち上がった。

 

▲この後、スケッチブックの意表をつく使い方でアッと言わせた北原評匠。

 

創世のころからイシスに携わる北原ひでおは、千夜の夜明けからの読者である。「世界の見え方を変える」のが千夜。であれば、「セイゴオ知文術」もそこを目指したいと息巻く。「10冊の課題本は、経験したり想像したりしたことのない世界観が提示される。わかるとわからないの間のモヤモヤやアワイを言葉にすること。それが編集を文体することである」と締めた。新しい世界観の出現を北原は願っている。

 


▲中村評匠は、内容とモードが渾然一体となったレクチャーを仕組んだ。

 

最終バトンは、該博な知識を道連れに編集道をひた走る中村まさとしに。型を駆使したレクチャーで、師範代たちは知文を指南する際の強力なツールを手に入れた。掉尾を飾るのは、中村が考えるハイパーなモノたちの連打である。古代エジプト奴隷像、フェルメール絵画、『カラマーゾフの兄弟』、そして、グレン・グールドの『ゴルトベルク変奏曲』。中村曰く、「ハイパーのカギは速度、それは要素の緊張感である」。心せよ、師範代たち。


伝習座が変われば師範代が変わる。
師範代が変われば指南が変わる。
指南が変われば学衆の回答が変わる。

 

師範代と学衆はそれぞれの未知へと向かう。変わりつづけた先に生まれるハイパー知文に出会う旅が、あなたの同乗を待っている。

 

▼49[破]締切間近。最終受付は10/10(月)。

https://es.isis.ne.jp/course/ha

  • 白川雅敏

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025