異質をつなげ!イシスとビジネスを結ぶエディットツアーレポ

2022/10/15(土)12:00
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活版印刷は革命をもたらした。活字という鉛でできた文字を組み合わせ、版の出っ張っている部分にインクを付けて、圧力をかけることで紙に転写する。グーテンベルクがブドウ絞り機からヒントを得たという話は有名だ。ハンドルを回すことでプレスしてブドウ汁を絞り出す機械が印刷機になった。アナロジーが世界にイノベーションを起こしたのである。

 

2022年10月9日に開催されたエディットツアーは、多くのビジネスマンに向けて編集を伝える機会となった。変動的で複雑きわまりない曖昧なVUCAな社会で、どのようにして舵を切っていけばいいのか多くの人が悩んでいる。「こんな時代には、「編集力」を鍛えることこそが時代を切り拓くことができる」ナビゲートを担当した戸田由香師範はビジネスに変革をもたらす編集の可能性を説いた。

 

アナロジーの力

編集において重要視されるアナロジーは、これからの時代のビジネスの必須武器になる。アナロジー(類推)とは、似ているものを推し量ることで未知の何かを理解したり、新たな意味を生み出す方法のことである。何かにたとえて考えることは誰しもがやっていることだが、歴史的にもイノベーションを起こしてきた。

冒頭に挙げた活版印刷の例はその一つにすぎない。蚊の吸血から痛くない注射針が考えられ、ビール工場のベルトコンベアから回転寿司が生み出され、スーパーマーケットからトヨタ自動車のカンバン方式がつくりだされた。「何かを生み出す時、ゼロから思考をするのではなく、既にあるものをもとにアナロジーを広げることが新たな価値を生んでいる」。戸田師範は「アナロジー」を重要視する編集力が切り開く新規ビジネスの可能性を述べた。

 

新結合するミメロギア

イノベーションとは「新結合」と定義される。新結合の方法ともいえる[守]コースで学ぶ編集の型「ミメロギア」を紹介しよう。ミメロギアとは模倣を意味する「ミメーシス]と、類似を表す「アナロギア」を一種に合成したお題で、一見関係なさそうな二つの事柄を上手く結びつける方法だ。戸田師範は「相容れなそうな情報Aと情報Bの間に対比性を持ち込んで、新たな関係性を持ち込むこと」と参加者に説明した。

ミニワークで題材になったのは、マスクとマイク、ジッパーとサッカー、珈琲と紅茶などだ。参加者からの回答には「ディフェンシブなマスク・オフェンシブなマイク」「下げるジッパー・上げるサッカー」「ジャズな珈琲・ワルツな紅茶」などが挙げられた。どれもワーク開始1分にも満たないうちにズームチャットに書き込まれた。この瞬発力こそが編集の肝なのである。

 

イシスのシステム

編集の型をさまざまな領域で活用している人は多いだろう。しかし、戸田師範はそれだけにとどまらず、イシス編集学校のシステムそのものの応用可能性を探求している。

編集学校の特徴として双方向性(inter-activity)の場があげられる。回答をする学衆と指南を届ける師範代がいる。唯一の正しい回答はない。師範代は編集コーチとなって、方法を評価した指南を送る。目指すべき目的地は決まっているわけではなく、共に探していくのである。学衆たちによる共読も教室に生まれる。編集可能性の追求こそが編集学校で行われていることなのだ。

「上司は模範解答を持っていて、それを部下が探すというのではなく、編集学校のようなインタラクティビティに富んだやりとりをどうすれば職場に持ち込むことができるか。それが、私のチャレンジングな課題です」。戸田師範は最後にそう語った。

 

前述したように現代は先行きの見通しが立たない社会である。決められた正解や既存の概念では太刀打ちできない。だから、今こその編集力だ。編集の本領は行き詰まった価値観の打開にある。まだ間に合う。10月24日に開講する編集学校の守コースでそのための礎を築いてほしい。

 

今後の本楼イベント

【10月16日(日)開催】ISIS×パラドックス コラボワークショップ

【まだ間に合う!】イシス編集学校[守]基本コース 第50期

【50守限定!】田中優子さんによるスペシャル講義

 


  • 山内貴暉

    編集的先達:佐藤信夫。2000年生まれ、立教大学在学中のヤドカリ軍団の末っ子。破では『フラジャイル』を知文し、物語ではアリストテレス大賞を受賞。校長・松岡正剛に憧れるあまり、最近は慣れない喫煙を始めた。感門団、輪読小僧でも活躍中。次代のイシスを背負って立つべく、編集道をまっしぐらに歩み続ける。

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