あなたの部屋で「みつ」なものを探してください。
物語編集術を体験するエディットツアー(オンライン)(2022年8月14日開催)は、このQからスタートした。ナビゲーターの植田フサ子師範は、画用紙に大きく「みつ」を書いて出す。
「みつ…?????」と、参加者のアタマにハナテが5つくらい並んだところで、「密、蜜、三つ、満つ、貢」とまた達者な文字で書いて見せる。
「いろいろありますよねー。連想してください!」[守]受講者9名、未入門の方5名、[守]の師範代1名、師範1名がこの日の参加者。それぞれの「みつ」を語る自己紹介シーンとなる。
つづいて、[破]番匠である野嶋真帆が物語構造の”基本のキホン”を語る。[破]を受講すれば誰もが知る物語のヒミツ、参加者には驚きの仕組みに感じられただろうか。物語の基本をふまえて、メインのお題が出される。物語の発端は、日常の安定した状態が破られること。その始まりを考えてみようというお題だ。[守]講座に登場する「IF THEN型推論」をつかう。
IF「窓を開けると赤い雨が降っていた。」
こんなことがあったとして、
「WHY: どういうことか?」
「THEN: どうなるか?」
と考えて、答えてもらう。
「ジャム工場王国に台風がふいたからだ。子供達は一斉にビンをもち雨を集め出した」
「雨雲の上で、雷さんが、自分の履いていた赤いパンツを洗っていた。
安いパンツだったので染料が落ちてしまった。
葉っぱも木も川もみ~んな真っ赤っかになっちゃった。」
「アパート屋根の赤いペンキが乾いていなかったので
窓を開けると赤い雨が降っていた。
下まで 塗る手間を惜しんだのかしら?」
参加者のみなさん、2分でこんなことを思いつくの、すごいです!
「どうやって考え付きましたか?」という野嶋番匠の問いかけに、それぞれが自分の思考過程を呼び起こす。そう、これが大事な編集稽古のプロセスなのだ。福田容子番匠からは、「雷さんなのに「安いパンツ」というズレの挿入がいいですね~」と、小気味よいツッコミ指南が入る。物語の発端の「IF」は、全部で6つ用意されていた。1人1つ回答してくださればよいと思っていたが、6つ全部にトライした方も、ブラボー!
回答を挟んでのやりとりのあと、野嶋番匠からお題の意味が明かされる。
人は理由のわからないものについて、その原因を想像で埋めたくなのものだ。子どもが失くしたものに対して「こびとさんが持って行った」と言ったり、古代の人々が日食について「神様が隠れた」と思ったりしたことは、物語的な納得、解決のしかたなのである。今日のワークは、おさな心や古代人の心の追体験だったが、実際に物語を書いてみると、発端からはじまって、広げたものをうまくたたむのはけっこう大変だ。[破]講座の物語編集術では、誰でも物語を書けるようなダンドリが用意されている。
ここで、当日、ナビの植田フサ子師範が、用意していながら時間ぎれで割愛したとっておきを。原田が投稿した当エディットツアーの告知記事が「はじめてのおつかい」だったのに応じて、新見南吉の『手ぶくろを買いに』の秘密を語ろうとしていた。
雪が降りつもった寒い夜、子ぎつねが人間の町に手ぶくろを買いに行く。
お店の戸口を開けてもらい、人間の手に化けているほうの手を差し入れたはずが、うっかりきつねの手のほうを入れてしまった!
お店の主人は、きつねの手を見てビックリするも、その手が差し出したお金が本物であることを確認して、何もいわず手ぶくろを渡す。
子ぎつねの秘密、その秘密がバレたことを秘したお店の主人。密が重なるお話だ。
子ぎつねは自分の失敗に気がついて、母きつねに報告する。
「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、掴えやしなかったもの。ちゃんとこんないい暖い手袋くれたもの」
きつねだとわかっても人間は親切だったと。
人間をこわいものだと思い込んでいた母きつねの心は揺らぐ。
「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」
子ぎつねの冒険は、母をも変えるのだ。
植田フサ子師範の温かくリズミカルな語りは天下一品なので、またいずれこの愛らしい物語を語ってもらおう。
だいぶん物語の秘密を明かしてしまった。でも、実際自分で書いてみるのは難しいもの。
お題と指南と仲間、この三位一体できっと書ける。
さあ、[破]にチャレンジ!
●参考文献:『手袋を買いに』新見南吉 青空文庫
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対象:どなたでも *U23割、家族割、再受講割などご利用可能です。
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
日程:2022年2022年10月3日(月)入門日、10月17日(月)開講
対象:[守]修了者 *U23割、家族割、再受講割などご利用可能です。
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/ha
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
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