2020ETS編集聖火ポスト01「青年よ、高志を抱け! 渡辺師範のEツアースペシャル」(世田谷)

2020/03/09(月)14:05
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 「少年よ、大志を抱け!」 これは誰もが知るクラーク博士の言葉である。連休最後の月曜日、豪徳寺本楼に登壇したのは[破]の師範を三期に渡ってつとめる渡辺高志師範。現役の[破]師範とあって、その名前の通り「高い志」を掲げたエディットツアーになった。スローガンは「青年よ、高志を抱け!」である。
 
 
 その「志」を知ってか知らずか本楼に集った参加者は24名。今季最大の参加者に高志の「志」はさらに高さを増していく。冒頭の自己紹介では、うだつの上がらない浪人が妻に逃げられてしまうという物語を共有し、浪人、番頭、人夫、居酒屋、長老、妻といった登場人物のなかから「許せない人」を一人選んで紹介し合う。さらに3人1グループになって、その自己紹介からその人「らしさ」を取り出して、相手に本楼の本から一冊を選び、相手にプレゼントした。
 
 さて、この「許せない人」、果たして本当に許せないのだろうか。私たちは自分の偏見や思い込みから相手とのコミュニケーションを不自由にしてはいないだろうか。高志の「志」はここにあり!さっと編集術を差し出す。
 編集術には「地と図」という考え方がある。一つの情報も見方、情報の「地」を変えれば「図」となる情報の捉え方が変わってくる。たとえば、コップはお店という「地」にあれば商品、工場であれば製品、ゴミ収集場であれば燃えないゴミ、キッチンであれば家の食器になる。コミュニケーションでも会社を良くしたいと上司と部下が思っていたとしても、売り上げを上げて良くしたいのか、育休を取りやすくして働きやすく良くしたいのかでは、良くしたい「地」が違うのである。
 
首を負傷してもコルセットをつけて熱弁を振るう林頭・吉村
 
 最後のワークは、自己紹介で選んだ「許せない人」を、お互いに交換した本の情報を使って、とても魅力的な愛すべき人物にすべく「地」を動かしてしまおうというもの。高志の「志」に気持ちよくハマった参加者たち。ワークの後は、それぞれの「許せない人」に愛着まで感じるようになり、コミュニケーションの編集を会得していた。24人の青年たちは、高志に学び、高志を抱いて、本楼を後に。次に再開するのは4月から開講する[守]講座になるだろう。そして、その先の[破]では、師範として高志が待っている。
 
  • 吉村堅樹

    僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025