2020ETS編集聖火ポスト03 江戸・明治・大正、そして令和の熊本で未来を描く(熊本)

2020/03/10(火)09:47
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 ここは熊本城の城下町、目の前をガタンゴトンと市電が走る。会場となる「長崎次郎喫茶室」は明治7年創業の長崎次郎書店併設カフェで、大正13年の建造だ。国の有形文化財にも指定されており、瓦葺きの屋根、煉瓦の壁、照明器具や備え付けの家具が当時の面影を偲ばせる。

 

 

長崎次郎喫茶室の目の前を市電が行き交う

 

 インターアクターの中野由紀昌と石井梨香は福岡市から、スタッフの佐土原太志は宮崎の都城市からかけつけた。熊本会場のキーマンは吉田麻子である。なにしろ江戸時代の伝統薬「諸毒消丸」を受け継ぐ『吉田松花堂』の看板を守り続ける人物なのだ。しかも家屋は会場から徒歩数分の場所にあるのだから、わが町での編集ワークショップ開催を誰よりも楽しみにしていた。この4人が熊本でのエディットツアーの場づくりを担った。

 

 テーマは「熊本と『わたし』の編集」である。参加者は9名。熊本在住がほとんどだったが、大分の耶馬渓から田中さつき(師範代)、植田フサ子(師範/評匠)も東京から熊本の実家へ帰省がてら夫婦で参加した。地元熊本の九天玄氣組、光澤大志は会場選びに協力したが、当日は参加者として参戦。7期[守]師範代で建築家の入江雅昭ともひさしぶりの再会を果たした。熊本地震では不運にも足を負傷した入江だったが、いまはすっかり元気のようだ。その中で、もっともフレッシュかつ白紙な状態でこの場に臨んでくれたのは、お茶の講師とタウン誌の編集者の女性であった。「よくわからないけれども、好奇心をくすぐられて参加してみた」と口を揃えた。冒頭に「初体験のお二人に向けてしっかりお伝えします」と念を押した上でワークショップははじまった。

 

IAの中野はMUJIBOOKSで三冊屋ワークショップの講師も務めた

 

 2時間半のプログラム。まずは吉田が「熊本らしさ、わたしらしさ」について語る。写真ボードを使って吉田松花堂の歴史と先の熊本地震による被害の様子を紹介。崩れた箇所もあるものの、もともとの造りが頑丈であったために復元できたエピソードを交えつつ、「熊本は見かけや外観より内なる芯がしっかりしていることに価値を置く。これが熊本らしさです」と、家業を通じて熊本に生きる自分らしさを、熊本弁も織り交ぜつつ語ってみせた。これが今回のワークショップの筋道をつくった。

 

 以降、自分をお菓子に見立てる自己紹介、伝え方のコツを体験するブラインドスケッチ、ポストイット編集術と連打する。ポストイット編集術では内なる情報がオーダーによって順番が入れ替わっていく。「この一年で買ったもの」には人生でもっとも大きな買い物であろう「家」が飛び出すと、会場にどよめきが起こる。「買い物の内容につっこまない。それよりも情報の取り出し方に注目してね」と中野は即座に水をさす。

 

 ワークショップの締めはプランニング編集術である。といっても破で学ぶ内容よりもかなりシンプルなものにしている。なにしろ30分でプランニングをしなくてはいけない。三位一体の型を使うこと、要素の一つに本を一冊組み込むことを条件にグループワークを組み立てた。お題は「熊本にほしい夢の公園」。

 

異分野の専門家同士、三位一体の関係線を手繰り寄せる

 

 あらかじめ用意した本をグループで1冊選んでもらい、手元にあるポストイットの情報を三位一体の枠に仮置きしながら、プランの骨格を練り始める。関係線を引ける情報はどれか。対話が始まると一気に自己編集と相互編集が交差する。みるみるうちに「熊本にほしい夢の公園」プランが仕上がっていった。

 

 各グループのプランは以下の通り。

《Aチーム》移動式公園「広場はモバイルだ!太陽とビールのクエスト座」

     *選んだ本『質問』田中未知

《Bチーム》星空とジビエを楽しむ「御船町立 星の広場」

     *選んだ本『星を賣る店』クラフト・エヴィング商會

《Cチーム》お茶と音楽を発酵で掛け合わした「和と音楽の発酵園」

     *選んだ本『発酵文化人類学』小倉ヒラク

 

 いずれも本から得た情報を巧みに取り入れたプランに仕上がった。たった30分でも型があれば立ち上がる。初参加の女性たちも型にはめることで新たな情報が立ち現れるさまに驚いていたようだ。

 

プレゼンで熱く語るAチーム。「実現できるんじゃない?」という声も

 

 終了後、向かいの喫茶店『天の川』へ移動し、歓談タイム。

 「いや~面白かった。知り合いの編集者にイシス編集学校を勧めても『私、間に合ってますから』と聞く耳を持たないんだけど、ここで学ぶ編集ってそういうことじゃはないんだよね」と入江がビール片手に声を大にして言い放った。すかさず「そういう方にこそ学んでほしいですよね」と応える中野も編集者である。

 

 一番の収穫は熊本のイシスな人々との出会いであった。翌日は福岡での開催。連日編集ワークショップに臨む石井と中野はビールをぐぐっと我慢して、新幹線で帰路についた。

  • 中野由紀昌

    編集的先達:石牟礼道子。侠気と九州愛あふれる九天玄氣組組長。組員の信頼は厚く、イシスで最も活気ある支所をつくった。個人事務所として黒ひょうたんがシンボルの「瓢箪座」を設立し、九州遊学を続ける。

コメント

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川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。