2020ETS編集聖火ポスト05 フェチなミニ本楼で妄想書店開店(大阪)

2020/03/10(火)21:06
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 壁際のテーブルには 160冊の本が所狭しと並べられている。この日ナビを務める山根尚子と7人のテーブルコーチがそれぞれ20冊ずつ持ち寄ったテーブルコーチ文庫だ。『空海の夢』『雑品屋セイゴオ』松岡校長の本がある。『ないものあります』『手をめぐる四百字』『うれしい悲鳴をあげてくれ』思わずめくりたくなる本。『江戸の化物』『ヤクザと憲法』『地球と一緒に頭も冷やせ!』ゾクゾクっとする本。コーチ陣の数寄とフェチが詰まった選本だ。コーチの阿曽祐子が「本に囲まれると本楼みたい」とぽつり。まさしくここはミニ本楼なのだ。

 

 

 

 ミニ本楼が現れたのは大阪と京都の中間に位置する大阪府高槻市。JR高槻駅前にある市民交流センター「クロスパル高槻」が会場となった。ワークのテーマは「新感覚!読書ワーク~本を使って、発想力アップ」。本を読むだけでなく、表紙、装丁、目次、触感など本のすべてを使い倒して編集力を鍛えることが目的だ。

 

 18人の参加者は、まず「フェチで自己紹介」で軽くウォーミングアップ。本とともに「フェチ」もこの日の隠しキーワードになっている。

 

 いよいよ本を使ったワークがスタート。自分のフェチに合うと感じたテーブルコーチ文庫から1人3冊を選ぶ。そのうちの1冊を自分に重ねて自己紹介する「ほんとのわたし」。ペアを組んだ相手に合うと思う本を贈り合う「ほんとうのあなた?」。贈られた方は表紙や目次、ページをめくり、どんな自分らしさを感じたかを話す。意外と見立てが当たっていたり、大きく外れていたり、笑い声が起こる。山根のニコニコ笑顔の仕切りで、ミニ本楼はすっかり和やかムード。お菓子の差し入れですっかり打ち解け会話も弾んでいる。

 

 

 テーブルコーチによる「編集思考素」の説明の後は、いよいよメインワークの「妄想書店」。贈り合った本に私物の1品を1つプラスして新しい本を企画、表紙・目次・帯を仕立てようというものだ。テーブルコーチのアドバイスにも熱が入る。プラス1の私物を次々入れ替えて試すペア。連想を口に出してアイデアを広げるペア。早々にタイトルを決めイラスト入りの表紙を描き始めたペア。時間を延長しながら、ご覧の通りの18人9ペアの「妄想書店」新刊が出来上がった。

 

 尾瀬嘉美さん&前田淳さん『手の中でできる冒険』

 山口美咲さん&梶正人さん『触・食・SHOCK』

 荒木裕大さん&清水邦厚さん『みんなきょうだい?』

 福永法子さん&西野佐弥香さん『STORYで売れ』

 村山静香さん&古橋睦之さん『異世界万華鏡』

 舟岡沙耶さん&加藤一郎さん『森に学びよく生きる』

 中川みちえさん&堀江純一さん『300年後の未来』

 井澤満美さん&高潤香さん『すてきになる色めがね』

 末藤紀子さん&仲畑純子さん『江戸を歩く』

 

 

 

 予定を40分もオーバーするほど熱の入ったワーク。「型に乗せると言葉にしやすくなる」(仲畑さん)などの感想が寄せられた。最後に「編集とは」という山根の質問に清水さんが「編集とはゲノム」と即答。テーブルコーチを驚かす名答が、ミニ本楼の充実の1日を物語っていた。

 

大阪エディットツアー を担当した最強指導陣

 

  • 景山和浩

    編集的先達:井上ひさし。日刊スポーツ記者。用意と卒意、機をみた絶妙の助言、安定した活動は師範の師範として手本になっている。その柔和な性格から決して怒らない師範とも言われる。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025