宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

「どうしてこの本があるんですか」ナビゲーターの上杉公志師範代の頬はかすかに上気した。
ある参加者がテーブルに置いたのは『世阿弥の稽古哲学』。イシス編集学校の編集コーチ陣必読書だ。しかし、今は伝習座でなく目次読書術のワーク中だし、ここは山梨県立図書館であってゴートクジの本楼ではない。
「あれえ、どっかでみたことあるなあ」と目を丸くしたのは、テーブルコーチを務める宮川大輔師範代。県立図書館に足しげく通う彼にさえ、この本と山梨の関係性は未知だった。
山梨県立図書館に山梨にゆかりのある本をとりまとめたコーナーがあることを活かし、ここから本を選んで目次読書しよう、というのがきょうのメインワークのはじまりだった。ワイン、富士山、温泉など山梨が誇る地域資源に関する本はもとより、山梨にゆかりのある著者の本が集められている。
イシス編集学校の守・破を終えると「インタースコア編集力」を身につける「花伝所」というコースが現れる。このインターチェンジを経た学衆(イシス編集学校では受講生をこう呼ぶ)が、情報だけでなく、人と人をつなぎ、場をダイナミックに動かす編集コーチとしての第一歩を踏み出すのだ。そこでの必読書が世阿弥の『風姿花伝』を精査した『世阿弥の稽古哲学』。
「なんとなく今日っぽいかと思って」と、この本を選んだ石丸さんは肩をすくませる。新規事業開発に携わりながらインプロ(即興劇)を学ぶ場をひらいている彼が、この場を「本」という”古(いにしえ)”を”稽(かんがえる)”リアル花伝所に見立ててくれた。
この日の目次読書は、1冊を読み切り「しゅはりよし」の型で要約編集を行い紹介しあったあと、ペアワークで2冊にプラスワンを加えるハードなもの。しかし、ここまで「おかしな自己紹介」「地と図」「ワインを連想で言い替える」で存分に編集モードを加速させた8名の参加者はもはや無敵だ。「自分の読みのブラウザーを立てましょう」と語りかける上杉に呼応し、本を隅から隅まで受動的に読み切るのでない大胆な読みで、本と自分のあいだを見事に編集した。
目次読書のあとは、2冊の本にプラスワンして関係性を見出すペアワーク。木彫りのサイやストランドビーストなどの奇想天外なアイテムをさまざまに見立て、連想し、編集思考素で関係性を結ぶワークを楽しげにクリア。3時間半におよぶ甲府エディットツアーはかくして終幕を迎えた。
written by 内田文子
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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2025-09-18
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豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。