風に乗ってふらり旅する秘湯歌仙

2020/05/10(日)10:15
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 イシス編集学校のエディットカフェの一角に、ひっそりと建つ寮がある。編集学校の温泉といわれる風韻講座を韻去した連衆の住まいであるこの半冬氾夏寮が今、熱い。

 きっかけは十七座胡桃座ち組連衆によるメーリングリスト歌仙「ちと疾し」の巻のお披露目だ。小池師範より芭蕉「山里は万歳遅し梅の花」のポストカードが返礼として届くと、新年から胡桃座有志による歌仙「万歳遅しの巻」が始まった。寮生が見守る中、3ヶ月の旅路を経て無事に巻き終わる。

 

 すると今度は寮内の有志を募って歌仙「さまざまの巻」が4月1日からスタートし、約2週間で挙句に到達。さらにゴールデンウィーク期間中、初夏之鉄火巻歌仙「湯をむすぶの巻」が超速で進行した。

 

 歌仙は、前へ前へと進む文芸だ。外出自粛もなんのその、森羅万象に及ぶ言葉をつないで、連衆はたくさんの私に変身し、意外な情報とつながり、どこへでも自由に飛んでいく。

 音頭を取るのは風船の空こと全然さん(41守前禅全然教室・小原昌之師範代)。「イシス20周年にちなみ、20歌仙が巻かれるやう企画したい」と高い志を掲げる全然さんが湯守として采配をふるう秘湯に、寮内が湧いている。湯あたりしないように、振り返り講を設けている心くばりにいたるまで編集づくし。寮生であれば、一度は浸かりたい湯である。

  • 福澤美穂子

    編集的先達:石井桃子。夢二の絵から出てきたような柳腰で、謎のメタファーとともにさらっと歯に衣着せぬ発言も言ってのける。常に初心の瑞々しさを失わない少女のような魅力をもち、チャイコフスキーのピアノにも編集にも一途に恋する求道者でもある。

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。