多読ほんほんリレー01 ¶2000年¶ 月匠◎木村久美子

2020/06/22(月)10:01
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20年前の6月1日、教頭の宮之原は、どきどき・どぎまぎ固唾を呑んでパソコンのモニターの前にいた。しかし、ラウンジ発言が見当たらない、なのでメールも送られてこない。宮之原はどうしたことかとはらはら・あたふた心配になり、「開講しています。ラウンジを開いて発言してください」と、かたっぱしから生徒さん(当時はまだそう呼ばれていた)に「電話」をかけたという。


これは、『インタースコア』(春秋社)にも載っていない、教頭から直接聞いた此処だけのホントの話。今では想像もつかないだろうが、本格的なSNS時代はまだ先、「IT革命」が新語・流行語大賞となったミレニアム2000年のこと。

 

しかし、第1期の場は、「失われた10年」を引きずるままの世間をぶっちぎるごとく、一気に加速した。校長が「わが21世紀はイシス編集学校の12の教室の応答とともにやってきた」と追想しているように、 12人の師範代がまたたくまに熱いエディターシップを発揮し、「問感応答返」の連環を突き動かしていったのだった。


発端の物語、コトの次第や一部始終について、『インタースコア』(春秋社)を手に、ぜひ、あらためて触れてみてください。


さて、こうした「2000年を語る一冊」は、6月1日の「千夜千冊」にとりあげられた、61夜:フリードリッヒ・マイネッケ『歴史主義の成立』。松岡校長はイシス編集学校の創設日に、あえてこの一冊を選本したのだろうか? そうではないだろうと思いつつも、ちょっと聞いてみた。

 

「そうね、そのようには選んでないけど」とおっしゃりながらも、時代やその変更に対して、これまでの流れがわからないと先もわからない。たとえば、ポストコロナやニューコロナなんて言っていてもダメ。有事であれ平時であれ、われわれの前に投げ出された「世界」を知るためには、本著のような「歴史主義のおさらい」も必要なんだね、と話してくれた。

 

『歴史主義の成立』、ヴィークルを乗り換え編集された『千夜千冊全集』では、第2巻『猫と量子が見ている』2章「モナドと博物学」に配された。タイトルは、「18世紀が用意した理の舞台」。千夜千冊エディションでは、『神と理性』第3章「西洋哲学史略義」におさまっている。

 

全集とエディションには、「抱いて普遍」を脱して「放して普遍」に向けて振幅させる「別様の可能性」がある、という編集的世界観が加筆されている。2000年6月1日のこの一冊には、『17歳のための世界と日本の見方』も『国家と「私」の行方』も、そして[離]世界読書奥義伝も、すでに埋め込まれていたのだ。

「歴史というものが数々の人間や民族が去来する“場”の上でくりかえしていく…、そのような反復しつづける“場”を当時の言葉でcorso ricorso という」。

 

『千夜千冊全集』のすべての夜に短歌を編んでみせた歌人で風韻講座の小池純代宗匠は、こう詠んだ。

 

  くりかへす corso ricorso 粗布の歴史一巻織りあがるまで

 

◆◆後記◇◇

 

20年目に差しかかった編集学校ですが、「こういうときこそ新しい方法を確立すべき」という松岡校長の“激”を受け止めながら、600人を超える学衆と指導陣が、今日も「稽古-指南」や共読に勤しんでくださってます。

 

こうした日々には、たった12人・12教室からスタートした時のあのかけがえのない“初心”が継承され、息づいています。だからこそ、松岡校長が本楼に掲げた「pauca sed matura 少数なれど熟したり」という気概もまた織り畳まれているのだと、あらためて確信しました。

 

それでは、「2001年」へと、吉野陽子冊師に、バトンをお渡しします。

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025