多読ほんほんリレー02 ¶2001年¶ 冊師◎吉野陽子

2020/06/26(金)10:04
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木村月匠からバトンを受け取りました吉野です。入門は2001年9月。9・11の直後に開講した4期守で、「言葉と意味はつねに不即不離をするものだ」という原則を学ぶ日々をスタートさせました。


それまで私は言葉と意味を一対一の関係で捉えてものごとを考えていました。開講以来連日流れるニュースにも悲惨さ以上のものを読みとる術をもたず、テロ、イスラム、ビンラディンという言葉から先を見、考えることはできませんでした。そんな中、イランの映画監督が書いた一冊の本が上梓されました。

 

モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(現代企画室)。

 

2001年3月に起きたバーミヤンの仏像破壊が世界中で伝えられる一方、アフガニスタンで起きている飢餓、貧困、抑圧は伝えられない。それを「世界の無知」と呼び、アフガン人の惨状を伝えるレポートでした。報道が指し示すものしか見ようとしない人類の怠惰を恥じよという著者の必死のメッセージでした。


グローバル資本主義社会が膨らみ、インターネットが普及していった時期。私は洪水のような情報を浴びながら、世界を読む方法を求めていました。

 

5カ月の長丁場だった4期守は、急速に変わっていく情勢と接しながらも「pauca sed matura」の精神に守られて、方法の学びを醸成させるうってつけの環境でした。ネット接続はADSL回線で、「既読」という概念はなく、受信と送信の間を着かず離れずの時間が流れていました。


千夜千冊は400夜を迎え、別院では「千夜千冊千日回峰」という遊びが始まりました。千夜千冊の感想リレーです。その頃は期を区切らず1期からの全員が登録されていたので、好きな一夜が被る可能性も高く、早い者勝ちでした。一番手は牧浦徳昭さんという長老。二番手に太田眞千代母匠。「尾崎翠は、わたしがもらった!」という声もあがったりしながら、何番手まで続いたでしょうか。まだ学衆という呼び名はありませんでしたが、見るからに生徒を超える生徒たちでした。

 

そこで私は言葉と意味の関係を学び直していきました。期と教室を越えた稽古と交感の中で、言葉と意味は不即不離の関係にあることを体で覚え、編集の入口に立ったのでした。

 

4期守の15教室は2002年1月、無事卒門を迎えました。


それでは、「2002年」へ。大音美弥子冊匠に、バトンをお渡しします。

  • 吉野陽子

    編集的先達:今井むつみ。編集学校4期入門以来、ORIBE編集学校や奈良プロジェクトなど、18年イシスに携わりつづける。野嶋師範とならぶ編集的図解の女王。子ども俳句にいまは夢中。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025