多読ほんほんリレー04 ¶2003年¶ 多読師範◎米川青馬

2020/07/02(木)09:57
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僕が編集学校の門をくぐったのは、2005年2月のこと。第11期は輪読座のバジラ高橋さんと物語講座の赤羽卓美綴師が師範代をされた期です。いま思うとスゴいのですが、当時は何が何だかよくわからないまま受けていました。もちろん破には木村学匠がいらっしゃって、吉野冊師にも大音冊匠にも、感門之盟などの場で早々にお目にかかっていたはずです。

 

そこから遡ること2年。2003年の千夜千冊は、0690夜アルチュール・ランボオ『イリュミナシオン』で始まり、0913夜ダンテ・アリギエーリ『神曲』で終わります。その間には、ソンタグ、野口雨情、ジョセフ・キャンベル、アウグスティヌス、空海、西行、ガルシア・マルケス、マルクス、ファノン、ヴィトゲンシュタイン、陶淵明、稲垣足穂、モンテーニュ、フロイト、土門拳、ベンヤミン…などなどなどの本があります。この頃の校長の仕事ぶりは鬼神のよう。いったいどうやったらこれほどのものが書けるのでしょうか。

 

そんな重厚なリストの中から、2003年を語る一冊として取り上げるのは、少々地味かもしれませんが、0719夜のこれです。

 

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 ローレンス・レッシグ『コモンズ』
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これにしようと思った直接のきっかけは、数日前のこの記事でした。最後にレッシグの名前が出てきます。
 https://www.businessinsider.jp/post-214220

 

少々プライベートな話をすると、僕は2000年からリクルートで働き始め、当時はひたすら求人広告を作っていました。その現場では、2003年頃に紙からWebへの切り替わりが急速に進みました。たとえば、2003年に『テックビーイング』という技術者向け求人広告誌が休刊しました。今じゃ信じられないかもしれませんが、それまではITエンジニアの中途採用ですら、紙媒体が幅を利かせていたのです。日本ではアマゾンや楽天を筆頭にECが普及しだした時期で、フェイスブックはまだ生まれてもいません(2004年誕生)。

 

レッシグが、コードやアーキテクチャでネット上の行動をコントロールする必要性を訴えた『CODE』や、ネット上に自由を確保する方法「コモンズ(共有地)」を打ち出した『コモンズ』を立て続けに出したのはその頃でした。早いですね~。『CODE』は原著が1999年で翻訳が2001年、『コモンズ』は原著が2001年で翻訳が2002年ですから、山形浩生さんの仕事の速さも素晴らしい。そして、松岡校長が2003年に千夜に取り上げられたのも、時代をかなり先取りしていました。

 

だって、荻上チキさんが数日前に『CODE』を取り上げ、法改正だけに止まらない議論が必要だと語っているのですから。ある面で、僕らは20年経ってようやく本格的にレッシグに向き合うことになったんだと思います。2003年には、それが将来の問題や可能性になることが、校長やレッシグにははっきり見えていたのですね。
(もっといえば、校長は1998年の『ボランタリー経済の誕生』で早くもネット上のコモンズの可能性に触れています。)

 

コードやアーキテクチャの問題はとても難しいと思います。荻上さんたちの取り組みは当然だと思う一方で、こういう仕組みが監視社会を強化したり、新たな社会問題を起こしたりする可能性も大きいですから。とはいえ、ネット空間のコードやアーキテクチャを詰めていくことはもう避けられないでしょう。

 

一方で、イシス編集学校がインターネット上に独自の「コモンズ」を築き上げてきたことを忘れちゃいけませんよね。20周年おめでとうございます。これからもよろしくお願いします。

 

次は、現在の僕の冊師・まつみち冊師のご登場です~。

  • 米川青馬

    編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025