多読ほんほんリレー07 ¶2006年¶ 冊師◎浅羽登志也

2020/07/15(水)10:02
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私の編集学校入門は、2007年の4月。その前年にあたる2006年は、ライブドア元社長の堀江貴文氏が証券取引法違反容疑で逮捕されるというセンセーショナルな事件からスタートしました。


同じインターネット業界とはいえ、私のいたIIJはインターネット接続料で収益を得るレガシーな接続サービスが中心で、ライブドアのような無料接続で集めたユーザーに情報を交換する場を与え、それに連動して掲示する広告料で収益を得るメディアサービスとは全く業態が異なっておりました。

 

しかし、当時はインターネットに繋がることはもう当たり前であり、2005年にはWeb2.0のような概念も登場し、ウェブをいかにして、新たな情報を生み出し発信するメディアとして活用できるかが価値の源泉になりつつありました。ライブドアのようなインターネットサービスのあり方が今後の主流になるのだろうなとぼんやり考えていた時期でした。

 

そんな時期に起こったライブドア事件は、前年にニッポン放送を買収しその子会社であるフジテレビをも傘下に収めて、インターネットを中心に据えたメディアコングロマリット構築を目指すホリエモンの野望を挫くべく企てられた、旧勢力による帝国の逆襲だったのかもしれません。

 

他方、本場アメリカでは、インターネット革命の波は確実に次のフェーズへと歩みを進めていました。2006年にGoogleの元CEOのエリック・シュミットは、誰でも不特定多数の人や企業に対して情報サービスを提供可能とするクラウドコンピューティングが、ウェブアプリケーションと個人データを集約するグローバルプラットフォームとして、世界を動かす新たな時代への移行を宣言しました。

 

私がそんな年の1冊に選んだのは、この大きな時代の流れを明快な切り口と平易な文章でズバリ予言したこの一冊です。

 

『ウェブ進化論 ー本当の大変化はこれから始まる』
             梅田望夫著/ちくま書房、2006年2月

 

この時は、なんだか大袈裟なタイトルだなぁと半信半疑で読みましたが、まさにその後、本書に書かれていた以上の大変化が起こったことは周知の通りです。既に本書の内容は陳腐化してしまってはいますが、これから起こるであろうさらに大きな変化を読む目を自分も持ちたいものだと思い選びました。

 

私が編集学校の門を叩いたのは、そのような大変化の時代を迎える上で情報編集術が必須スキルとなっていくのではないかと考えたからでした。そう考えたのは、上記の本のおかげでもありますが、実はもっと大きなモチベーションを与えてくれたのが、2006年の12月に発売された、松岡校長の『17歳のための 世界と日本の見方』でした。


世界の歴史を縦に読むだけではなく、グローバルな因果関係を、ウェブのハイパーリンクよろしくダイナミックに横に繋いで見る視点はとても新鮮でかつ刺激的でした。

 

この本の出版が示唆するように、これ以降の編集学校は、いかにして世の中に浸透し、実社会とインタースコアするべきかを明確に意識し始めたのだと思います。まさに編集学校2.0が、ウェブの新時代の到来と同じ時期に始まっていたのです。

 

そして今年で20年を迎えて「大人になった」編集学校は、さらなる進化の方向性をしっかりと見据えて進み始める節目の年になるのでしょう。そんな大事な年を皆さんと共有できたことをとても嬉しく思います。

  • 金 宗 代 QUIM JONG DAE

    編集的先達:宮崎滔天
    最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
    photo: yukari goto

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025