蛹の胸部にせっかくしつらえられた翅の「抜き型」を邪険にして、リボンのような小さな翅で生まれてくるクロスジフユエダシャクのメス。飛べない翅の内側には、きっと、思いもよらない「無用の用」が伏せられている。
2011年といえば「3.11」。地震、津波、原発という問題・関心が一挙に日本中に広がりました。震災直後に更新されました1405夜 『新版 活動期に入った地震列島』には、3月11日の翌日に24[破]の伝習座が開催され、この有事にほぼ全員が駆けつけ方法の練磨に励んだことが記されています。後に自分が師範代を経験し、そこで体感した伝習座という場の熱誠は、困難を乗り越えながら連綿と受け継がれてきたバトンだったのでした。
その有事の翌月にわたくしは25[守]へ入門します。入門より約3ヶ月前の1月末、不意に手にした『FASHION NEWS』で出会った松岡校長。「今の日本は歌(童謡)を忘れている」と、ファッションと童謡を自在に重ねる語り口に、そして白髪をかき上げたあの風貌に惚れたことが編集学校の門をたたいたきっかけでした。
この年は震災のほかに、サッカー女子ワールドカップの優勝に日本が沸き、金正日総書記の死去や、アラブの春に世界の歴史の変わり目を感じ、また大相撲の八百長には国の伝統へ亀裂が走る瞬間を垣間見た年でもありました。しかし何よりも、これまでのお勉強とはちがう、広大な学びの道が開いたことに夢中でありました。
それでも当時は、校長本を読み進めても千夜千冊はからっきし。振り返りますと、2010年からの流れで『イスラームの歴史』から始まり、イブン=ハルドゥーン『歴史序説』やマルコ・ポーロ『完訳東方見聞録』という大作が続きます。そこに震災が起きますと、校長は原発、地震、東北に関する本を番外録として連打し、この有事と向き合われたようです。後にこの番外録は『3・11を読む』にまとまりますね。
そして今、再び有事となっています日本。緊急事態宣言が行われたと同じ時期、松岡事務所が編集を仕立てた『大船渡三十六景』を手にしました。そこに映るのは、土地を愛し、文化を継承し、記憶を紡いでいる人々の姿。震災から、新祭・新彩・新歳へと光景が変位している。この読後感はなんだろう。『3.11を読む』を再読し、ある一夜に遭遇します。2011年を語る一冊として1417夜のこの本を取り上げます。
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『北上幻想 いのちの母国をさがす旅』
森崎和江
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当夜には「母国とは、必ずしもたんに生まれ育ったクニや民族性の中だけで見いだせるようなものではないのだ。母国は何も告示してはくれない。母国というのは探さなければ見つからないものなのである。」とあります。土地の景色を与えられる立場ではなく、土地の人々として未来を求め探しあうことで、その人の中に【母国】は次第にかたちづくられていく。また著者はあとがきに「生きてきて思うことは、感受した時空の論理化はそれなりにたやすいのだが、そしてまた時流にのった論理は民族や集団を支配しがちだが、個体にとって生きるという体験の総量は論理を支えとしながらなお広大な宇宙の闇をひびかせる、ということ」と記します。歴史的現在とは、積極的に歴史の潮流と混じろうとする構えであり、これが母国を獲得するのに必要な視座なのだと考えます。編集工学研究所のスローガンのひとつ“歴史を展く”がスッと身体に入ってきました。
最後に『インタースコア』のこの一節を引きます。「われわれは、いつからか自分と世界を分断して考えるクセがついてしまっている。けれでも、本来「自分」というものはたくさんの他者や出来事、そして世界とつながっているのだ」。多読ジムで冊師を務めるにあたり声をかけていただきました木村月匠のお言葉です。編集学校に入門してからもうすぐ10年。途中空白の時間もありましたが、稽古の日々を過ごす中で、世界と自分がつながっているという感覚を得ることができました。20周年おめでとうございます。これからもよろしくお願いします。
それでは、2012年へ。13離でお世話になりました小倉加奈子多読師範へバトンを渡します。
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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2026-01-20
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2026-01-12
午年には馬の写真集を。根室半島の沖合に浮かぶ上陸禁止の無人島には馬だけが生息している。島での役割を終え、段階的に頭数を減らし、やがて絶えることが決定づけられている島の馬を15年にわたり撮り続けてきた美しく静かな一冊。
岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)