イドバタイムズ issue.5 お雑煮を編む~お正月エディッツの会・複眼レポ

2022/03/01(火)08:29
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編集学校の方法を子どもたちのために外へつなぐ。
「イドバタイムズ」は子どもフィールドからイシスの方法を発信するメディアです。

 

1月9日、子どもフィールド主催でオンラインイベント「お正月エディッツの会」を開催した。
テーマはお雑煮。イベントに先立ち、イシス内でお雑煮情報の募集を呼びかけると、全国各地域の特徴と家々に伝わるエピソードとともに22のお雑煮が投稿された。
当日は、親子からイシス未入門の大人まで21人が集った。

日本のお雑煮カルチャーを語り、遊んだ時間をフィールドメンバー4人の眼を通してレポートする。

 

 

    • PLAY 1 あけたのなあに?
      吉野陽子

 

 坊主頭がゆっくり昇ってきた。BGMに「とーしのはじめのためしーとてー」が聞こえてくる。「日の出とともに出てまいりました」とナビゲーターの野村英司(鏡面カレー教室・師範代)が登場した。

 

みんなびっくり「日の出登場」

 

 これから始まるのは「あけましておめでとう」ゲーム。みなさんは、「あけましておめでとう」で何があけたか考えたことはあるだろうか? 当然「年が明ける」のだが、もっと遊んでみたい。他に何かあけるものはないか?と子ども支局は考え、いろんなものをあけてみよう、という遊びに仕立てた。

 

 野村が手本をしめす。ケトルを出し、「ぱかっとあけて、じわ~と湯気が出て、しあわせな気分でおめでとう!」と言う。

 

 1)あけたいものを見せる
 2)あけた音をオノマトペにする
 3)その時の気分で「おめでとう!」と言う

 

 こんなルールを確認し、1分間でそれぞれあけたいものを探しにいった。

 

 子どもたちが選んだ「あける」もの。


名鉄電車の本を「びゅーーん」とあけておめでとう!(4歳男子)
オセロのボードを「かちっ」とあけておめでとう!(6歳男子)
財布を「ちっ」とあけて、いいきもち、おめでとう!(6歳女子)
ふでばこを「じゅじゅじゅっ」とあけておめでとう!(10歳女子)
ボールペン立てを「ぱかっ」とあけて、いろんないろのボールペンがでてきた、おめでとう!(4歳男子)
終了した歯列矯正のケースを「ぱかっ」とあけて、うれしい気持ち、おめでとう!(9歳男子)

 

 野村が子どもたちをフォローする。「どんな音?」「どんな気持ちになる?」
 表情の変化をとらえて「ちっ、かな?」「じゅじゅじゅ?」と声をかける。
 参加者にもっと遊んでもらおうと、編集ナビゲーターとして腕をふるう。

 

 大人も負けていない。


空っぽのお重を「ぱかっ」とあけて、おなかいっぱいおめでとう!
ワインを「かぽっ」とあけておめでとう!
思い出戸棚をあけて、次へ向かっておめでとう!
缶をあけていろとりどりなクッキー、おめでとう!
水筒を「ぱかっ」とあけて、なにげないしあわせをおめでとう!
オルゴールを「そーっ」とあけておめでとう!

 

 編集ゲームはいつもナビゲーターと参加者で作り上げていく。

 

 最後に、全員が揃ってそれぞれの音を出し、あけたいものをあけた。
 はじめは様子をうかがっていた人たちも徐々に場に引っ張られていき、「お正月エディッツ」が幕を開けた。

 

 

 

  • PLAY 2 集まれお雑煮! そして、動け!
    景山卓也

 

 今回のエディッツに先がけて、子どもフィールドの参加者から今年食べたお雑煮を募った。野村からナビゲーターを引き継いだ松井路代(おちこちアーモンド教室・師範代)が各家庭のお雑煮を写真とともに映し出した。

 「はまぐり出汁雑煮」「正月は味噌ではないのだよ雑煮」「広島で食べる佐賀寄り雑煮」。具、味、場所、お雑煮のどこに注目したかでお雑煮のネーミングは変わってくる。どれひとつとして同じお雑煮はない。今回のゲスト講師である野菜ソムリエ・若林牧子守番匠は「中身汁」(沖縄県)が気になったとのこと。なぜ中身なのか、なんとこのお雑煮に丸もちでも角もちでもなく、お餅自体がないのだ。
 参加者の投稿からお雑煮にはいろいろな味付けや作り方があることがわかった。ではお雑煮に何を入れてもいいのかといったらそうではない。そこにはお雑煮という「型」が動いているにちがいない。

 

集まった2022年のお雑煮

 

 次に映し出されたのは、投稿されたお雑煮を日本地図上にマッピングしたスライド。北海道から沖縄まで、地方ごとに色分けされた日本列島から、さきほどの各地のお雑煮の名前が引き出されている。バラバラだったお雑煮たちを日本地図の上で各地域ごとに分けると、学校でクラス替えをしたようにお雑煮という情報が動き出した。

 

<日本地図の一覧>

 

 さらに松井は「ふたつの軸をクロスさせて分類してみました」と続ける。【もちの形状(角もち・丸もち)】と【具の多さ(シンプル・具だくさん)】というタテとヨコの軸に分類した図解を示した。図解のなかの「○○雑煮」の分布には粗密があり「丸もち」や「具だくさん」のイラストの方は人気なのに「角もち」は人気がない。

 

<二軸四方型方>

 

 【具の多さ】の軸を【味つけ(みそ・すまし)】という軸に持ち替えてみると、「みそ」を使っていたのは大阪府と奈良県だけで「すまし」の家庭が多いことがわかった。もちの軸の中間には角もちでも丸もちでもない「ひきな餅」というもちが分布されていることも発見だった。
 二つの軸を掛け合わせてみることは編集学校の[守]ではおなじみの稽古である。材料や調理法が多様なお雑煮も分類してみることで、ちがいやあいだが見えてくる。松井は「この分類方はお雑煮以外のものを研究をするときにもオススメです」と子どもたちに方法を手渡した。

 

 

  • PLAY 3 お椀にぎゅぎゅっと詰めたのはなぜ?
    ~若林牧子守番匠のお雑煮講義~

    浦澤美穂

 

 朱塗りのお盆の上の汁椀・お茶碗・屠蘇器。木桶の中のたくさんの野菜。人参の赤と大根の白、葉物野菜の緑が鮮やかだ。
 若林番匠の「お雑煮講座」は、「お正月っぽい」テーブルコーディネートを背にして始まった。
 導入はなぜお正月にはお餅を食べる?というお話だ。

 

 

 お餅はお米でできている。そのお米のルーツを辿ると、田んぼ→イネ→お米の三間連結になる。そしてお米がご飯とお餅に二点分岐する。ご飯もお餅も田んぼから来た、神様から賜った大切な「ミノリ」なのだ。ゆえにお正月に飾る鏡餅は神様が寄り付く依代で、両側が細くなった柳箸は私達と神様が一緒に使ってごちそうを食べる。少し前のお正月、実は神様と過ごしていたということを子どもたちは新鮮な驚きで受け止めていた。

 

 

 続いてはお雑煮にいれる具の話に移る。「おうちのお雑煮には何が入っていた?」という質問に子どもも大人も楽しく答えた。若林はお雑煮によく入る野菜を木桶から取り出しながら、ひとつひとつその由来を説明する。たとえば菜っ葉は「名(な)をあげられるよう」里芋は「子だくさん」だ。そして野菜の切り方にも意味がある。輪切りは「丸く収めるように」、半月切りは「末広がり」と縁起を担いでいるのだという。
 お椀の蓋をパカッとあけると詰まっているもの、「お雑煮の編集方針」は、食べる人が幸せになりますようにという願いなのだ。

 

 おそらくまだ話のほとんどがわかっていない1歳の娘は、それでも画面の向こうに見入っていた。小さい頃、「自分の周りの大人」はみんなほぼ同じ属性を持った「なんとなく似た人たち」だった。でも「友達の友達」を6人たどると世界中の誰とでも繋がれるのだそうだ。おとうさん・おかあさんの知っている人の中は、自分のまったく知らない人がいる。知らなかった人に会って、初めての話を聞いて、世界が揺れ出す。ときにはそういう経験が必要なのかもしれない。

 

 若林の講義を「ぎゅぎゅっとつめて教えていただきました」と引き取った松井師範代は、お雑煮に入れるものは「だし・もち・具」にわけることができるとまとめた。ひとつひとつはほとんど重なっていないように見えるお雑煮の中身も、わけてみるとわかることがある。お雑煮には「型」があって、写真で見たたくさんのお雑煮も型にあてはめることができる。「お雑煮」の名前の由来は色々な具を似合わせた「煮雑ぜ(にまぜ)」だと講義のなかで解説があった。型に則って、煮合わせられていれば何をどれだけ入れてもいい。お雑煮の新たな可能性を感じながら、プログラムは次のワークへと移る。

 

 

  • PLAY 4 NEOお雑煮、誕生!
    ~マイお雑煮ワークショップ~

    上原悦子

 

 「マイお雑煮を作ってみましょう。」ナビゲーターの得原の声に合わせて、画面上に「おもち」「おだし」「ぐ」と書かれたシートが現れた。「おもち」「おだし」「ぐ」の3つの要素を自由に組み替えて、マイお雑煮を作ってみようという趣向だ。

 

お雑煮ワークシート

 

 マイお雑煮は、好きな食べものをミックスさせてもいいし、「おだし」を決めて「おもち」と「ぐ」を載せてもいい。お雑煮の「ネーミング」から考えてもいい。画面の前から遊びに出かけていた子どもたちも、少しずつ集まってくる。

 

 「ピアノお雑煮」。6歳の少女の回答に、支局の松井が驚いた。白いスープにオレオクッキーが入っているお雑煮だ。スープに浮かんでいるオレオクッキーが白と黒のコントラストを際立たせている。オレオの間に白が挟まっているところも、入れ子のようで面白い。
 「ozouni」というお雑煮も飛び出した。「もち」はきな粉餅、「だし」は豚骨ベース、「ぐ」はほうれん草と鶏肉とチャーシュー。「ラーメンみたい。海外でウケそうですね。」すかさず松井がフィードバックする。回答した9歳の少年はくすぐったそうな顔をした。

 

 

 大人からも、「ぞう」と「ウニ」が入っている雑煮や、菜の花が入っている「春の雑煮」など、<お正月に食べるもの>にとらわれない多様な雑煮が飛び出した。

 

 お雑煮は<お正月の食べもの>とは誰が決めたのだろう。「だし」を餡に変えればぜんざいになるし、名古屋名物の「味噌煮込みうどん(餅入り)」だって味噌ベースのお雑煮に、うどんが入っているだけだ。
 「ぐ」「あじ」「もち」の組み合わせを変える。雑煮の中には、まだまだ新たなバージョンが眠っていそうだ。
 雑煮がラーメンに次ぐnext和食になる日もそう遠くはないのかもしれない。

 

吉野
吉野
総合司会は、上原悦子(よりみちパンセ教室・師範代)さん。明るく凛然とした進行に、佐々木局長から「プロ!」の声があがりました。息子のごう君(4歳)がお母さんの言葉に続けて「どうぞ~」と重ねて呼びかけをお手伝い。「こだま司会」と大評判でした。

  • イドバタ瓦版組

    「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。