ネタのタネ ウメコが明かす取材の奥義@JUSTライターデビュー直前講座

2023/03/17(金)08:30
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遊刊エディストが変わろうとしている。創刊から4年たったいまでも、イシス編集学校にはまだスクープされていない「事件」がある。この現場に潜入し、記事として届けたい。弥生某日、エディスト編集部・上杉公志の声かけにより、その願いに共鳴する6名の腕利き師範代が集結した。この記事は、キックオフミーティングで行われた特別レクチャーの記録である。


 

■「話を聴く」難しさ

 職場で、学校で、家庭で、傾聴の重要性が叫ばれている。「聴く≒インプット」と考えれば、観る、読む、食べるなども同様に大事だ。編集学校でもお題文や回答、指南をどう書くかより、まずどう読むかだ。注意のカーソルの向け方がその後の出来を左右する。

 だが、話し手・聴き手双方の世界の見方が変わる「聴く≒観る≒読む」ができる人は少ない。ただ「自分と同じ」を探して「いいねボタン」を押すだけ。これではビッグデータという名の承認印が蓄積されるだけだ。校長松岡正剛は1601夜『ビッグデータを開拓せよ』で、これを「過剰結合状態」と指摘する。

 そんな中、遊刊エディスト編集部・上杉公志が立ち上がる。編集学校の価値化されていないネタを救出すべく、JUSTライターチームが結成された。渋谷菜穂子、畑本浩伸、福井千裕、北條玲子、米田奈穂、清水幸江。全員師範代経験者だが、ジャーナリスト未満。デビューは4日後に控えた感門之盟。

 足が竦むチームに上杉がプレゼントを投げ込んだ。エディスト記者梅澤奈央によるZoomレクチャーだ。梅澤の本業は企業の話を聴き、社会に示すライター。聴き、問い、結ぶ手腕が『推しメン』にも結実している。

 

■まず《地》=ソトを見よ

 「書く」は難しい。だがその前に立ちはだかる「聴く≒観る≒読む」の壁は高い。虫の目で急所に針を刺し、鳥の目で社会へ広げる梅澤であれば、聴く方法も鋭いはずだ。そう思ってインタビューのコツを質問したら、意外な言葉が返ってきた。

 

「まずはおしゃべりするかな」

 

 驚いた。が、落ち着いて考えれば当然だ。いきなり針を見せられたら相手は身構えるだけ。すでに急所だとわかっているところを突いても新しくない。だから、まずおしゃべりで氷を溶かし、ガチガチな土に空気を入れるのだ。

 レクチャーの冒頭、梅澤は参加者一人一人の顔を見ながら「なにかしらの同期」と共通項を差し出し、「私よりコンパイルもエディットもうまい」と参加者を評価した。話を聴く相手の背景となる《地》と自分の《地》を重ね、自身の温かさで、参加者の地表の氷を「おしゃべり」で溶かしたのだ。

 このあと、梅澤はエディストライター的注意のカーソルの使い方を伝授しはじめる。「まず《地》=ソトを見よ」。スターウォーズが宇宙全体の描写から始まるように、地模様を描け、と続けた。

 

 

 

 今、社会では何が起きているのか? 読み手の関心はどこにあるのか? 《地》、すなわち舞台設定がよければ良い記事が書ける、と梅澤は豪語する。ワールドモデルの出来が物語の出来を左右する。物語編集術を学んだ読者なら、ことの重要性がわかるだろう。

 

■良いネタとは何か

 書くコツは書く前のネタ選び、つまり目利きにある。離総匠太田香保曰く「ダメなネタはどう握ってもダメ」なのだ。ネタを選ぶには、まず相手からネタのタネを引き出さなければならない。そのために「おしゃべり」で《地》を耕すのだ。

 聴かなきゃ!と力んでいた参加者の心の地面が、わずか1時間でふかふかに生まれ変わり、芽吹きの準備が整った。そこには猫を抱きながら柔らかく微笑む梅澤の姿があった。

 

 

 

 

 

  • 清水幸江

    編集的先達:山田孝之。カラオケとおつまみと着物の三位一体はおまかせよ♪と公言。スナックのママのような得意手を誇るインテリアコーディネーターであり、仕舞い方編集者。ぽわ~っとした見た目ながら、ずばずばと切り込む鋭い物言いも魅力。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025