トラクターとクリオネと鼠、古い農具と酒器と鶏の標本、熱帯植物とリクガメとマダガスカル固有種のサル。異質なものが隣接しながら混然一体となっている。初音イズタロー教室とホーム・ミーム教室の合同汁講は、東京農業大学「食と農」の博物館・バイオリウムから始まった。
[破]の終盤、プランニング編集術の稽古ではハイパーミュージアムを構想する。そこで学衆を悩ませるのがハイパーとは何かである。「ハイパーをリアルに感じる場にしたい」という両教室の師範代の思いが一致し、合同汁講のテーマは「ハイパー」に決定。見学先に選んだのが、この小さなミュージアムだった。
「普通の博物館のように一貫した展示でないところがユニーク」。案内役を務める小林奈緒師範代の言葉に学衆たちが頷く。「関係ないものが一緒に置いてあるのに違和感がない」「なんとなくハイパーぽさを感じる」「農大が地になっているからでは?」。見学を終えて、さまざまな感想が飛び交った。
次は本命の編集工学研究所。原田淳子学匠と八田英子律師が[破]の先にある進路を語ってくれた。師範代をめざす[花伝所]や[遊]講座、最難関の[離]、新しく始まった[多読ジム]……。それぞれの夢を馳せたところでハイパー・インターブッキングに突入する。参加者各自がハイパーだと思って選んだ本を交換し、ハイパーとは何かについて交わし合おうというものだ。網口渓太師範代が仕切り役を買って出た。
一人一冊のはずが二冊、三冊と多く持ってきた人がいて、テーブルには14冊の本が並んだ。11人の参加者が「せーの」で一斉に指差して本を選び、目次読書を経てハイパーらしいと思うキーワードを三つ発表する。それに対して提供者が自分の見方を説明するというルールだ。『勉強の哲学』(千葉雅也著、文藝春秋)を選んだ小林三郎さんが挙げたキーワードは「勉強とは自己破壊、自由になる、バカになる」。提供者の桑田惇平さんが「まさに自己破壊をすすめる本。付き合っていた人が変わり、松岡校長の千夜千冊エディション『本から本へ』(角川文庫)に出会い、自分を変えるきっかけになった」と自身の体験を交えて説明した。
こうして絵本、漫画、小説、哲学書、雑誌と多岐にわたる本のインタースコアが一巡。網口師範代が「ハイパーをドレスコードにこれだけの本の交換が起きたことに可能性を感じた」と締め、一行は次の会場となる三輪亭へと向かった。
2020年1月19日(日)
「初音イズタロー教室、ホーム・ミーム教室」合同汁講
◎43[破]原田淳子学匠 八田英子律師 小路千広師範
◎初音イズタロー教室 網口渓太師範代
参加学衆:三谷和弘、舘下恵、内村寿之、小林三郎、畑勝之(敬称略)
◎ホーム・ミーム教室 小林奈緒師範代
参加学衆:桑田惇平、中島紀美江、内田正司(敬称略)
小路千広
編集的先達:柿本人麻呂。自らを「言葉の脚を綺麗にみせるパンスト」だと語るプロのライター&エディター。切れ味の鋭い指南で、文章の論理破綻を見抜く。1日6000歩のウォーキングでの情報ハンティングが趣味。
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