中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
 
                                                                                 
        
        
         
                         
                新型コロナウィルスが蔓延し、社会は根本的な見直しを迫られた。見直さざるを得ないと誰もが感じた。かねてより気になっていた『免疫の意味論』に取り組むべき時が来た。
『偶然と必然』と『コロナの時代の僕ら』の三冊を併読することにした。地は、新型コロナウィルスに覆われた地球社会の現在。図は、ウィルスに対抗する免疫の意味、抗原に対する抗体が生まれるプロセス、それらを念頭に置きながらも押し寄せる波の中で溺れないように思考を巡らす素粒子物理学者の自意識だ。
三人の著者はいずれも科学者であり、哲学者や文学者であるという共通点を持つ。
「免疫の意味論」の著者である多田は、科学の成果を人文の目で眺める必要性を説き、文化・芸術を通して発信することを思い描いた。
異物を認識し攻撃するのが免疫なのではない。免疫が認識しているのは「自己」であり、それが異物により「非自己」化されてから免疫は働き始める。どんな事態にも対応できるような仕組みを生み出す仕組みとして、免疫は存在している。非自己を取り込んだ自己を確認するという自らの行為を通じて自己を維持する。
そういう免疫システムの柔軟な働き方に思い至り、生命のもたらすあらゆる現象への理解が深まり、応用を効かせることができるようになった。
『偶然と必然』の著者であるモノーは、多田と同じ分子生物学者の一世代前の研究者である。科学に根拠を求め、科学において現象は決定できるとの断言が、賛否両論の議論を呼んだ。
生命の全体性との差分にゆるく解釈の余地を残しておく多田らのスタンスと、モノーの姿勢との違いは僅かかと思いもするが、近くにいて接すると、そうとばかりは言えないのかもしれない。
『コロナの時代の僕ら』の著者、ジョルダーノは国民的な文学賞の受賞者でもある。ウィルスの蔓延と免疫の攻防に対する知見はおそらく持っているのだろう。ウィルスが社会に与える圧力と、右往左往する同時代の人々を見ながら思索し、コロナが終息しても、決して元どおりに戻らない社会を作るべきだ、と決意を述べる。
『偶然と必然』から50年、『免疫の意味論』から27年。多くの人に、100年前のスペイン風邪に見舞われた社会の記憶はない。しかし、何かしらの免疫機能により、社会の抗体はできていたのだろう。
その知見をもとに、どのような社会を作っていくのか、まだまだ免疫機能を発揮していくべき時なのだと思う。
●3冊の本:
 『免疫の意味論』多田富雄/青土社
 『偶然と必然』J・モノー/みすず書房
 『コロナの時代の僕ら』パオロ・ジョルダーノ/早川書房
                            
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:宮崎滔天
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto                            
11月は別典祭へいこう! 二日限りの編集別天地?【11/23-24開催】(10/28更新)
10.28更新 申込方法とプログラムを更新しました。 2025年11月23日(日)・24日(月・祝)、イシスの新しいお祭「別典祭」(べってんさい)を開催します。 場所は編集工学研究所ブックサロンスペース「本 […]
津田一郎の編集宣言◆イシス編集学校[守]特別講義 カオス理論で読み解く「守破離」と「インタースコア」
●「編集宣言」とは? イシス編集学校の基本コース[守]では、毎期、第一線で活躍するゲストを招いた特別講義「編集宣言」を開催しています。これまで“現在”アーティストの宇川直宏さん、作家の佐藤優さん、社会学者の大澤真幸さんら […]
『遊』大放出!? 続報!!「杉浦康平を読む」読了式 多読SP
「杉浦康平を読む」読了式の続報をお届けします。 先月、山田細香さんが最優秀賞&学長賞のダブル受賞を果たしたニュースはすでにエディストしました。ですが、授賞の舞台はそれだけにとどまりません。方源(穂積晴明)賞、武蔵美・杉浦 […]
【全文掲載】最優秀賞&学長賞W受賞は山田細香 多読SP「杉浦康平を読む」
満面の笑みで、ガッツポーズ! 世界陸上のワンシーンではない。 2025年9月14日に開催された多読スペシャル第6弾「杉浦康平を読む」の読了式で山田細香さんが最優秀賞&学長賞をダブル受賞した際の一幕だ。 山田さんの […]
ISIS co-missionミーティング開催! テーマは世界読書奥義伝[離]
本日、ISIS co-missionミーティングが開催され、イシス編集学校のアドバイザリーボードが豪徳寺・本楼に集結した。 メンバーは、田中優子学長(法政大学名誉教授、江戸文化研究者)をはじめ、井上麻矢氏(劇団こまつ座代 […]
コメント
1~3件/3件
2025-10-29
 
                                                                                中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
2025-10-28
 
                                                                                松を食べ荒らす上に有毒なので徹底的に嫌われているマツカレハ。実は主に古い葉を食べ、地表に落とす糞が木の栄養になっている。「人間」にとっての大害虫も「地球」という舞台の上では愛おしい働き者に他ならない。
2025-10-20
 
                                                                                先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。