【多読ジム】GWはセールだよ!千夜リレー伴読★1770夜『小枝とフォーマット』

2021/05/04(火)23:51
img POSTedit
 セイゴオ・マーキング動画に古今東西アトラス絵巻三連発。待ちに待ったミシェル・セール、そして図像も大盤振舞いとGWにふさわしい一夜がアップされました。9つにナンバリングされた松岡正剛のセール読みはぜひ当夜でご堪能ください。
 さて、エディスト千夜リレー伴読は著者ミシェル・セールの名前をもじって3つのセールでご案内します。
 
◆「小枝とフォーマット」のグランド・セール
 
 小枝&フォーマット。この奇妙な組み合わせのタイトルを見れば、小枝ってなにか、フォーマットってなんだろうと、頭に吹き出しが出ますよね。まずは「フォーマット」ですが、世界地図、解剖図、宇宙像、能舞台、バスケコート、これらはすべてフォーマットです。
 
 社会は役所、市場、裁判所、銀行、軍隊、レストランといったフォーマットに囲まれ、そこからサブやミニやバージョンの小枝が伸び、それらが絡まりながら国家ができあがっています。私たちは、このことがもう自明のように思いすぎているために、世界のフォーマットがどうなっているかを勉強するか、ゴシップや広告の小枝たちの振る舞いしか気にならなくなったのでしょう。
 
 「小枝とフォーマット」の均質化が世界を覆って、どうにも退屈なのが今です。セールは、私たちが退屈する理由を「理性に関わる長い連鎖が常に同じフォーマットを繰り返すからだ」と書いています。「倦怠は法則を繰り返す」「倦怠は人を殺す」と続きます。セールは、ここで世界の分析だけをしたわけではありません。
 
 
◆更新と再生のリニューアル・セール
 
 『小枝とフォーマット』のサブタイトルは「更新と再生の思想」。序文でセールは「今日の世界が苦痛の呻き声をあげているのは、産みの苦しみを開始したためである。深刻な危険が迫る中で、われわれは、生活に影響を及ぼすものの総体と人間との間に、新たな関係を創り出さなければならない」と宣言しています。
 
 千夜ではセールを「世界を自由に組み替え可能なものとみなす世界編集の可能性を提示しつづけている」と紹介しています。その世界編集とは、理解しがたい「ノワーズ(noise)」に耳を澄ます編集であり、「寄食者(prasite)」の「準(なぞらえ)」や「擬(もどき)」の高速化に賭ける編集であり、創発カオスやセレンディップな別に向かう3つ目の編集でした。
 
 雑音を入れたり、ズレたり、逸脱したりというのは、予測不能な状況を呼び込みますから、人を不安にさせます。本書本文には「不安」という節があります。通常は、不安にならないでとか、不安な状況に追い込まれている、などとネガティブに捉えられる言葉です。それをセールは「不安は人を復活させる」と書きました。「不安という宝を保存せよ。それは存在の中に投げ込むものなのだから。今日流れ込んでくる致命的な危機なしに・・・、われわれは何らかの出来事を一つの出現に変えることができるだろうか。新たな世界を創出することができるだろうか」。
 
 私たちは「不安」をできるだけ取り除くような社会フォーマットに暮らしています。そして「不安」を見つけるのに躍起になって、ほらまだ社会にこんな不安が残ってますよと互いに言い募っているうちに、どんどんつまらなくなっていく。「不安」を前提に、「不安」を歓迎し、「不安」を編集契機にする生命力に満ちた新たな世界像。それが私たちに必要な「更新と再生」のためのニュー・フォーマットなのではないでしょうか。
 
 
◆共読で、共可能なワゴン・セール
 
 新たなフォーマットがフォーマットになるための条件として、「とてつもない機能性」が作動すること、かつそれを模倣する「献身」が必要だと千夜にあります。ギリシア・アルファベットがホメロスの叙事詩や六脚韻の小枝を繁茂させたように、「創出よりも模倣を促す力」がフォーマットには必要だというんですね。
 
 更新と再生のための「フォーマット」、そこから次々に伸びる「小枝」のことを考えると、イシス編集学校の稽古フォーマットと重ねたくなります。正解のないお題があり、学衆への回答があり、一人ずつへの指南がある。十人程度のウェブの教室があり師範代がいる。始まりがあり4ヶ月で終わる。守破離のステップがある。なかでも「幹」となるのは、コップをコップでない別を考えるという方向性をもったお題と、一人が一人を個別に方法的に引き上げるプロセス、稽古という非日常の日常習慣でしょう。限定性と平準化を解放し、別様性と個別性を重視し、新たな倫理を構築している。イシス・フォーマットは企業講座やプロジェクトや学校教育にも模倣され、師範代、師範たちの献身によって、社会で奪われた想像力の翼の更新と再生を目指しているとも言えます。遊刊エディストも一つの小枝であり、天使であると言ってもいいですね。
 
 私たちはそろそろ自らフォーマットを選び、選んだら献身し、模倣の小枝を伸ばしたいということに気づき始めているのではないでしょうか。セールは一人で読むよりも共読こそふさわしいそうです。みんなでよって集ってセール読みをし、別様の共可能性を見出せるワゴンに乗り合わせていきたい。そこまで行けたら次はハイパーヒップホップとキマイラVRですね。
  • 吉村堅樹

    僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025