【冊師が聞く03】たくさんの「わたし」が輝く理由(中原洋子)

2021/06/24(木)09:00
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多読ジムの名物冊師が”気になる読衆”にずばりインタビューする新企画「冊師が聞く」。

第三回のインタビュアーは中原洋子冊師(スタジオNOTE)。今季Season06の「三冊筋プレス」は締切寸前。次シーズンの多読ジムSeason07の申し込みも締切寸前。多読ジムとはどんな講座なのか?

 

◆小林奈緒さん(スタジオNOTES)◆

14&37守、14,37,42破、守破両方のお題改編の前後を学衆として体験されている大ベテラン。村上春樹ファン。教育関係の出版社にお勤め。小学生と2歳のお嬢さんと旦那様の4人家族。「会社員」、「母」、「妻」というポリロールをこなしながら、多読ジムをシーズン02から継続受講。超多忙の中、シーズン04では物語講座を受講しつつ、多読ジムの正規お題をコンプリートという偉業を達成。ナウル諸島に行きたい…と呟く多読ジマー。

第3回のインタビュアーは中原洋子冊師(スタジオNOTES)。多読ジムには、他講座のロールを抱えた人が多い。もちろん完走は大変だ。しかし、ここに「会社員」、「母」、「妻」というポリロールをこなしながら、多読ジムと物語講座を同時受講し、見事に完走した者がいる。なぜ、彼らはポリロールしながら駆け抜けられるのだろう? その秘密に迫ってみた。

受講のきっかけを教えてください。
ヨーコ冊師
ヨーコ冊師

「読書が好き、本が好き」と思っている自分に、お墨付きをあげたいと思ったからかしら。「書き方」は習うけど、「読み方」って習ったことがない。そういえば「本との付き合い方」もよく考えたことがない。そういうのをきちんととらえ直してみて、「やっぱり本が好き」と言える自分でありたいなと思って、門をたたいたように思います。

初めて受講したときの多読ジムの感想はどのようなものでしたか?

第一印象は「積読が減りそう!」でした。でも、読んだ分、買っちゃいました(笑)

トレーニングについてはいかがでしたか?

読相術トレーニングの「特訓・目次&マーキング」がとても面白くて、毎日のように取り組みました。

あれは効果的なエキササイズですが、毎日というのはすごい!ジムの中でも噂になっていました。

<1>のブッククエストは、自分からは出会えなかったかもしれない本を手に取ることができて、醍醐味を感じました。本棚を作ったり、読むだけじゃなくて書いたり、「本を読む」という行為にこれほどのいろんな「ほかの運動」がくっついてくるんだなぁと思いました。自分の半径を強制的にぐっと広げられる感じが、気持ちの良いストレッチでした。

ふむふむ、ブッククエストは読筋にとってよきストレッチ。

<2>のエディション読みは、読前の私へのリコメンドという仕組みにしびれました。
 知らない誰かではなく、過去の自分にむけて本を紹介するって、これまでどうして誰も 教えてくれなかったんだろうな~と思います。

リコメンド文というアウトプットに醍醐味を感じられたのですね。

初受講時の<3>三冊筋プレスは、育児休業からの復職と重なったこともあり、完走できずに終わってしまいました。

あ、初受講時は完走ならなかったのですね。

はい。でも、3冊で読むことを一度体に通せたのは意味があったな、と思っています。

その後、多読ジムのシーズン04秋では、多読ジムを受講しつつ物語講座13綴も同時受講されて、両方とも見事に完走されました。しかも、物語講座の「窯変幼なごころ賞」も受賞されていますよね。両講座完走の秘訣は?

ロールは「二重」になるのではなくて「二倍」になるのだと思っていて、また、ロールは質量ではなくて、「面」なのだとも思っているんです。

ロールは「面」…。そこをもう少し詳しく教えて下さい。

面も広げすぎると、目と手が行き届かなくなったり、あたらしい面ができるとストレスがかかったりするので、個人差があると思いますけれど、ポリロールの魅力は「行き詰り」を逃がす場所が複数ある、というところにあると思います。

複数の「面」を行ったり来たりすることで「詰まりをとる」。それは、たくさんの「わたし」を生きるということでしょうか。

ひとつのことだけやっていると、やっぱりどうしても行き詰ったり煮詰まったりすると思います。
 多読ジムのような、「やりたいときとできるときに、やれることをやる」という場所は、物語講座を受講していた当時の私にとっては、とてもよい「逃がし場所」だったので、どちらも完走できたのかな、と思っています。

ここまで多読ジムを継続して手ごたえを感じることはどんなことでしょう?

大きく3つ、手ごたえを感じています。
 ひとつ目は勝手に思い込んでいた読み方から、自由になれたことです。
 これまでは「全部ちゃんと読まなきゃ」と思っていました。テキトーに読んでもいいし、何言ってるかわからないな~とか思ってもいいし、途中でやめたことに罪悪感を覚えなくてもいいし、途中から読んだっていいし。
 本だって、全部真面目に書かれているわけではないというか(笑)
 「ちゃんと読まなくちゃいけないところ」と「テキトーに読んでもよさげなところ」とかが、なんとなくわかるようになったのも、わたしには大きな手ごたえです。
 「読めなくてもいい」ってわかったので、わからなそうな本も読めるようになりました。

2つめは?

どんな本も、本を読むことはみな読書だとわかったことです。わたしの好きな読書は「小説を読む」という、とっても狭い世界での読書だったと気づきました。
 学術書を読んだり、ビジネス本を読んだりするのは「読書」ではないと思っていた。そういう本には「味」がないように感じていたんですね。でもそれは勘違いで、どの本にも当たり前ながら味がありました。それは、著者の経歴に興味を持つ、とか、そういうところからも引き出されていることがわかりました。
 まだまだ薄味ですけれど、お出汁が決まれば味の方向性は決まってくるので、ここからは自分でも料理できるようになっていくといいなと思っています。

う~ん、確かに自分が考える読書って狭いかも。
では、3つ目は?

手ごたえというよりは、変化かもしれないですが、本を汚すことに全然抵抗がなくなりました。
 ちょっとお値段のする本に、すっと最初のマーキングをするときのわくわくも覚えました(笑)。
 でも、小説だけはできなくて、気になった言葉を、別のノートに書き留めていくようにしています。
 これまでは勉強以外で、ノートへの転記なんてあまりしたことがなかったのですが、これも多読ジムに通ったからこその行為だなぁと思っています。

多読ジムはどういう人が受講するといいと思われますか?

老若男女、みんな受講すればいいと、忖度なしに思っています。
 ベースにあるのは「本が好き」でもいいし「本が苦手」でもいいと思います。読むことから自由になりたいと思っている人、ですかね。
 自由になるのには訓練がいりますよね。編集学校の守も破も、私はそういう場だと思っていますが、多読ジムもまた、本から自由になるためのプロフィールだと思うので、自分が不自由だと感じていない人ほど、受けてみてほしいなって思います。

貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございました。どうぞ、これからも「やっぱり本が好き!」の小林奈緒さんでいらしてくださいね。

多読ジムを振り返る、とてもよい機会をいただきました。
こちらこそ、ありがとうございました。

 


◎多読ジム season07・夏◎ 締切間近!!

 

∈START

 2021年7月12日(月)

 

∈MENU

 <1>ブッククエスト(BQ):ノンフィクションの名著

 <2>エディション読み   :『文明の奥と底』

 <3>三冊筋プレス     :笑う3冊

 

∈URL

 https://es.isis.ne.jp/gym

 

  • 中原洋子

    編集的先達:ルイ・アームストロング。リアルでの編集ワークショップや企業研修もその美声で軽やかにこなす軽井沢在住のジャズシンガー。渋谷のビストロで週一で占星術師をやっていたという経歴をもつ。次なる野望は『声に出して歌いたい日本文学』のジャズ歌い。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025