かさね – 遊刊エディスト:松岡正剛、編集工学、イシス編集学校に関するニューメディア https://edist.ne.jp Mon, 03 Mar 2025 12:04:34 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.8.1 https://edist.ne.jp/wp-content/uploads/2019/09/cropped-icon-512x512-32x32.png かさね – 遊刊エディスト:松岡正剛、編集工学、イシス編集学校に関するニューメディア https://edist.ne.jp 32 32 185116051 我々はいかにしてEDO人となりしか https://edist.ne.jp/post/20250216_edofukyoren_yusanhyosho/ https://edist.ne.jp/post/20250216_edofukyoren_yusanhyosho/#respond Tue, 04 Mar 2025 03:01:59 +0000 https://edist.ne.jp/?p=82378 **多読アレゴリア【EDO風狂連】2/16<遊山表象>体験録 **

 

 イシス編集学校学長・田中優子氏を“宗風”に迎え、江戸の文化を読み書き遊ぶ【EDO風狂連】。『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』(文春新書)を共読したり、連句を擬いたりと、一人前の江戸人めざして粛々と稽古を進めてきたが、これまではいわば座学。本日2月16日は待ちに待ったリアル・ピクニック、一座建立<遊山表象>の日である。                 

 

▲左から中村麻人・米田奈穂風師、福澤美穂子詩雀がお出迎え

                            

◆◆江戸のもの創りのすさまじさに触れる

 【EDO風狂連】初の記念すべき<遊山表象>は、田中優子宗風による江戸語りから始まった。講演の部は「ISIS FESTA」として開催され、EDO風狂連受講者以外からも多くの人が集う。参加者は260年間の江戸時代の流れをマップした「時代構造図」を手に、江戸に生まれた陶磁器、革製品、着物の写真や、『アート・ジャパネスク』の図像が映るスクリーンに見入った。江戸時代とは「荒波の滴」を使ってもの創りに没頭した時代だ(速報はこちら )。入ってきた異国の技術や物をそのまま使わずに、自分の生活に合わせて改変、それに飽き足らずついつい趣向を凝らして誰も見たことがないものを創っちゃうのが江戸人。そんなすさまじくもべらぼうな編集ぶりに当てられ、一人ひとりの内なるEDO心が騒ぎ出す。

 

▲講演後は優子宗風とともにお汁粉を味わった

 

◆◆いざ実践、実戦!「歌合三番勝負」

 優子宗風を囲み、ブビンガに着席した【EDO風狂連】一同。ここからは、EDO風狂連メンバー(連中)だけが参加する真剣勝負の時間だ。「ひ・ふ・み組」の3グループに分かれた。手元の紙には、各組の持ち歌として「風の短歌」が並んでいる。

▲「連句庵」を切り盛りした大武美和子歌雀が進行する

 

●一番:風の短歌

 【ひ組】駆けてきてふいにとまればわれをこえてゆく風たちの時をよぶこえ
 【ふ組】夏の風山よりきたり三百の牧の若馬耳ふかれけり
 【み組】比叡おろしふきつのる夜をいねがてのわれにはあかせ天地(あまつち)の法

 

 歌合(うたあわせ)とは、平安時代から続く歌の優劣を競う遊戯である。こっちの歌がいかに優れているか、そっちの歌がいかにいただけないものなのかを、方人(かとうど)が代表して述べる。読み解き、弁舌、そして相手を完膚なきまでにやりこめる勝負師としての心意気が試される、アワセ・カサネ・キソイの宴だ。各々、持ち歌の「褒めどころ」、そして他の組の「下げどころ」を素早く探す。勝負の判者はもちろん優子宗風である。

 

 【ひ組】の歌は何をもってしてもリズムが悪い。
 【ふ組】の歌は風というには弱すぎる。まるで小学生のスケッチだ。
 【み組】にいたっては「比叡おろし」という松岡正剛校長作詞の歌のタイトルが、まるで印籠のごとく使われており風情がない(!!)
 稽古の時には優しげだった連中も見事な下げっぷりを披露し、遠慮がちだったツッコミも徐々にヒートアップ。注目の第一試合は、その歌の通りすっと吹き抜ける夏の風のように鮮やかに読み解きを展開した【ふ組】に軍配が上がる。さて、これらの短歌の作者はおわかりだろうか? 【ひ組】寺山修司、【ふ組】与謝野晶子、【み組】湯川秀樹だ。

 

●二番:狂歌

 狂歌には元になる「本歌」がある。優子宗風が先刻の講演で「江戸文化は外国から入ってくるものと、日本の過去にあるものを素材として使った」と言っていたことが頭をよぎる。外と内(歴史)、どちらともつながるのが江戸人の真骨頂だ。とはいえ令和に生きるなか、EDO風狂連連中、和歌に深く親しむものがどれほどいるのか。

 

 【ひ組】一刻を千金づつにしめあげて六万両のはるはあけぼの
 【ふ組】ほととぎす鳴きつるあとにあきれたる後徳大寺の有明の顔
 【み組】かくばかりめでたくみゆる世の中をうらやましくやのぞく月影

 

▲ほかの組の歌のほうが良いと思っていても口には出せぬ

 

 【ひ組】の歌はお金のことばかり、身も蓋もありませんねと言えば、何をおっしゃる。身も蓋もないのはほととぎすに女性を重ねた【ふ組】のほう。金や女の生活臭からぐんと離れた【み組】のめでたさを御覧なさい。まア御冗談、お月さまの光は昇ってくる太陽には叶いません。日々のささやかな営みの先に、六万両という大きな輝きを想像した江戸の人の心の大きさが分からぬものでせうか――。

 軍配は【ひ組】に上がったが、どの組も歌の世界をよく理解していると優子宗風から高評価をいただき面々に自信がのぞく。なお三作はすべて江戸天明期の代表的狂歌師・四方赤良(大田南畝)の手によるものだ。

 

●三番:江戸短歌

 江戸の人は芝居のセリフ集を愛読していたという。観たら自分もやりたくなるのが人の性、やる人/見る人を分けないのが江戸のマナー。ならば我らも先人の歌を読むだけでなく、つくってみむ。連中・風師は事前に「江戸」をテーマとした短歌を詠んできた。各組メンバーが持ち寄った歌のなかから、「これぞわが組一推しの歌」を掲げて、いざ江戸短歌3首の三つ巴合戦! なかでもひときわ存在感を放ったのがこの一首だ。

 

 【ふ組】一途には追えない影の定めとも誰ふりかえる浮世絵の女(ひと) 中村万

 

 この出来栄えにはひ組・み組も「寂しすぎる」「どこか中二っぽい」などと苦し紛れのへらず口をたたくのがせいいっぱい。優子宗風は江戸時代に流行した「誰が袖(たがそで)」を引き合いに出し、面影を感じさせる歌と絶賛する。【ふ組】、文句なしの勝ち星。

 

▲「泰平の世と云へ生くは戦なり吾は別世に遊び生き延ぶ」の江戸短歌を披露した【EDO風狂連】の顔・米田風師

 

 下手なものを下手といい、手前味噌を好き勝手並べて気がつけば黄昏時。歌ひとつ、身ひとつで我らが遊んでいたこの場・この時間こそ、江戸人がこぞって出入りしたという別世だったか。一人前のEDO人をめざす旅は、【EDO風狂連】3月からの〈春の候〉へと続くのであった。


文:本忽(ぽんこつ/吉居奈々風師)

歌合の写真:後藤由加里

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おしゃべり病理医 編集ノート-「ポモドーロ法」より「かさね仕事術」 https://edist.ne.jp/nest/%e3%81%8a%e3%81%97%e3%82%83%e3%81%b9%e3%82%8a%e7%97%85%e7%90%86%e5%8c%bb%e3%80%80%e7%b7%a8%e9%9b%86%e3%83%8e%e3%83%bc%e3%83%88%ef%bc%8d%e3%80%8c%e3%83%9d%e3%83%a2%e3%83%89%e3%83%bc%e3%83%ad%e6%b3%95/ https://edist.ne.jp/nest/%e3%81%8a%e3%81%97%e3%82%83%e3%81%b9%e3%82%8a%e7%97%85%e7%90%86%e5%8c%bb%e3%80%80%e7%b7%a8%e9%9b%86%e3%83%8e%e3%83%bc%e3%83%88%ef%bc%8d%e3%80%8c%e3%83%9d%e3%83%a2%e3%83%89%e3%83%bc%e3%83%ad%e6%b3%95/#respond Mon, 13 Jan 2020 02:37:00 +0000 https://edist.isis.ne.jp/?p=4546  「毎日毎日、喜びを感じているような奴は大成しない」
 
 病理学者、仲野徹先生の言葉にたじろいだ。しかし数秒後にすぐに開き直るのがワタシ。「大成なんてしなくていいから、喜びで溢れる日々を送りたいなぁ」そう心の中でつぶやいた。世紀の大発見でなくてもいい。自分が大切に想っている大好きな人やモノについて、新たなことを少しでも知ることができれば、幸せなのだ。
 
 拙著『おしゃべりながんの図鑑』で、喜びの定義にキビシイ仲野先生と対談した。4時間近くにおよぶ対談は、おしゃべりなおぐらをほぼ黙らせるほどの仲野先生のマシンガントークで盛り上がった。本来は、テープ起こしを経由し、原稿にしていくのだと思うが、ずぼらでせっかちなおぐらは、3つのテーマをえいやっと設定し、笑い声が絶えず混じるテープを繰り返し聞きながら原稿を書き進めていった。3つの対談原稿が完成したのだが、紙面の都合で1つはお蔵入りに。そこには病理学の話からだいぶ脱線した読書の方法や仕事術の話がぎゅっとつまっていた(担当編集者の山本さんが、あまりにもお話が広がり過ぎていますと却下の理由をやんわりと教えて下さった)。今回は、その中から仕事術についての話をご披露したい。
 
 仲野先生は、仕事の効率を上げるために「ポモドーロ法」を活用するのだそうだ。ポモドーロ法、みなさんはご存知ですか。25分を1ポモドーロとし、5分の休みを必ず挟んで、作業を継続していく仕事効率アップの方法である。1ポモドーロ内では、これをやるぞと決めたひとつのことに集中する。メールチェックしたり、電話対応したりしない。どんなに気持ちがノッていたとしても、25分経ったらさっと止めて、きっちり5分休む。その繰り返し。
 
 仲野先生の経験では、1日8ポモドーロがちょうどよく、10ポモドーロやるとヘロヘロになり次の日に支障が出るとのこと。あまりに集中するので、週1回は、非ポモドーロデーを作って、積極的に怠けるのが良いようだ。それから、25分が経過したことを教えてくれるスマホアプリもあるが、先生のおススメは、トマトの形のキッチンタイマーだ。「よし、今日もやったるで!」とタイマーをきゅっと回す動作で気合いが入るらしい。
 
 「ポモドーロ法」。正直、わたしには合わないなと思った。大阪大学教授の生粋の研究者、仲野先生は、誰からも邪魔されずに、自室に籠ることが可能だと思うのだが、わたしは後輩たちとともに同じ病理検査室で一緒に仕事をしているし、のべつまくなし臨床各科のドクターがふらっとやってくる。おしゃべりなわたしがみんなの仕事の邪魔をしていることも多いのだが、25分間、誰からも邪魔されずに仕事をすることは不可能である。
 
 術中迅速診断は、病理医の大事な仕事である。手術中に行う病理診断であるが、術式を変更するかどうかの判断に関わるため、かなり緊張する。手術が多いときは1日で5、6件の術中迅速診断を行う。1回の迅速診断には検体処理から診断報告までに最低20分はかかる。手術経過によっていつその依頼が舞い込むか予測することは難しく、どんなにこちらが集中していい感じに仕事を進めていても、待ったなしの術中迅速診断は、容赦なく割り込んでくる。
 
 このように、ポモドーロ法を実践することが難しい仕事内容と職場環境なのである。そこで実践しているのが、「かさね仕事術」である。今やりたいことを全部かさねてやる方法である。
 
 朝、職場のパソコンをつけて、メール、書きかけの原稿のテキストや作成途中の学会や講義用のパワポなど、全部のソフトを開き、やりたい仕事に即、着手できる準備をする。診断すべきガラススライド標本も机に積み上げておく。そこから1日の仕事が本格始動。その時いちばんやりたいことから仕事を始める。声をかけられたり、飽きたりしたらすぐにやめる。好きなことばかりやってしまいがちだが、好きなことで調子を上げると面倒な仕事に関するヒントが頭に浮かぶ。あるいは後輩と雑談しながら、ふと新しい発想が湧き出てくることもある。そのタイミングをしっかりとらえて、一気に面倒な仕事に向かう。こちらの連載も複数回の執筆を一度に進めることもある。その方が、相互に新しいアイディアや情報の見方をひらめくことができるように思う。連想思考状態を保ち、「日々喜びに溢れる状態」を継続し、仕事の効率アップを狙うのである。
 
 かさねの仕事術。わたしがせっかちでずぼらだからなのか。いえ、違います。ポジティブな公私混同のためです。そして何より、日本人だから。この仕事術は、日本の「かさねの作法」のひとつだと信じている。「ポモドーロ法」は名前の通り、イタリア発。勤勉な日本人にはかえってストイックすぎるし、「かさね仕事術」をみなさんにはオススメしたい。
 
 遊ぶように仕事をすること。見立てを大事にして、テーマ間の類似と相似につねに敏感であること。少しずつずらしつつ、つなげていくことで、仕事や思索を広げていくこと。「ちらし」「もどき」「うつろう」「あやかる」「まぜこぜ」「見立て」からなるかさね仕事術。表象したものが「吹き寄せ」られ、たくさんのわたしを創っていくようなイメージで日々過ごす。
 
 かさね仕事術は、情報の「乗り換え・持ち替え・着替え」を加速する。「乗り換え」とは、情報がメディアの変化によって絶えず、表現し直されているということ。「持ち替え」とは、情報は常に別の情報との間に「型」を生み、その型と一緒に何かのメッセージを携えているということ。そして、「着替え」とは、時や場所、気分によって、情報が変化することである。
 
 様々な仕事をかさねて進めていくと、情報の乗り換え・持ち替え・着替えが起こりやすくなる。Aという仕事のモードを全然別のBに当てはめてみたら面白いのではないか。Cという現象は、Dという現象に型が似ているな。ふだんと違うモードで資料を作ってみよう!というように、色々な発見がつながり、仕事が面白くなるし、速くなる。
 
 1526夜『かさねの作法』https://1000ya.isis.ne.jp/1526.htmlには、「日本する」とは「編集する」に同義だとある。日々の生活の中で日本したい。かさね仕事術で乗り換え・持ち替え・着替えを楽しみたい。
 
 仲野先生、日々喜びを模索する根性なしのおぐら。大成しないと思いますが、これからもよろしくお願いします。
 
ポモドーロ法 v.s. かさね仕事術
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