この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

問いに始まる、エディターシップ・トライアル2022春の『編集力チェック』。一つめの質問「すきなものを3つ挙げてください」には全114名342個の数奇が寄せられました。アナロジカルな分析に挑んだのは48[守]師範代と師範による混成プロジェクトチームです。『二軸四方』の型を使って、社会のいま・兆しに注目しました。
プランナーとして広告メディアの第一線で活躍する、はらあやこ師範代(48[守]源泉宅急便教室)。自身の数奇は「青空を見上げながら入る露天風呂」だそう。時代の「イマ」を柔らかく、世の中の「感」を掬い出します。
多岐に渡る「すきなもの」から新たな輪郭を浮かび上がらせるための解析編集。今回は「分ける」をキーワードに、3つの「分ける」で2つの「すきなものMAP」の作成を試みた。
■ルール決め「モノ」x「コト」
分析対象も多すぎるとその傾向が見えづらくなる。そんな時は、まず一本の線を引いて全体を二つに分けてみるという方法も有効だ。沢山の「すき」を頭の中で再現しながら、今回着目したのは「モノ」か「コト」かという違い。手触りを感じられるものか、五感で体感できるものかという指針の元、約200の回答を抽出した。
「モノ(とヒト)」グループと「コト」グループに分けたら、今度はそれぞれを二軸四方型で分類していく。具体的には、2つの軸を組み合わせ、4つの象限(ゾーン)をつくってそこに回答を分類していく。2つの軸は、お互いが全く関係ないテーマになっているほど、掛け合わせた時に思わぬ化学変化を起こしてくれる。
■空間軸x音楽軸
「モノ・ヒト」グループの回答で作成した二軸四方型の分類MAPから見ていく。掛け合わせたのは「屋内⇔屋外」という空間軸と「ロック⇔クラシック」の音楽軸だ。約100の回答を4つのゾーンに分けると、特徴的なシーンやイメージが浮かび上がってきた。屋外ゾーンに注目すると、右上のロック領域には「スイスイと走るロードバイク」「歌いながら走らせる自転車」といったアクティブな回答が集まった。自粛モードが続く中で、気持ちがアガったり旅立ちを想起させる動的なイメージが目立つ。一方で、右下のクラシック領域には、美しい風景を想起させる回答が並んだ。癒しの絵画のようなイメージが静かに立ち上がる。音の対比構造の奥に、癒しと跳躍といった心の対比が見え隠れするのも興味深い。
屋内ゾーンでも、ロック領域は心がアガるご褒美的な回答が多いのに対して、クラシック領域では家族の団欒のようなゆったりとしたイメージを掬い上げることができる。「すきなモノ・ヒト」を分類することで、4つの幸せなシーンを描出することができた。
■関係性x季節性
「コト」グループは「自分⇔他人」の関係性軸と「春夏⇔秋冬」の季節軸を掛け合わせて二軸四方型のMAPを作成した。左側に回答が多いのは、コロナ過で一人時間が増えているからだろうか。自分で味わう「すき」を見ると、春夏ゾーンでは「五感で味わう日々の空気」「昼下がりのピアノの音」「自然の中を歩くこと」といった気持ちのようイメージが浮かんでくる。さながら日光浴を楽しんでいるかのようだ。対して秋冬ゾーンでは、「帰宅後の熱い風呂につかり無になるとき」といったような、自分の内面にまで矢印が向かうような、静かな体験が多く集った。しばし時を忘れ、自身の内側までも磨き上げるルーティーンはヨガを髣髴とさせる。
また誰かとの体験を紡ぐ右側のゾーンも、季節によって異なる表情を魅せた。息を合わせて踊る社交ダンスと、ペアで組んでぐーっと身体を伸ばすストレッチ、そんな感覚的な対比的も見えてきた。
今回、二軸四方型を通すことで、コロナ過だからこその「すき」の輪郭が浮かび上がった。多くの多様回答が集まったからこそ見えてきた新たな「すきなもの」の群像を、どうぞご堪能いただきたい。
(分析・図解・文/師範代はらあやこ)
平野しのぶ
編集的先達:スーザン・ソンタグ
今日は石垣、明日はタイ、昨日は香港、お次はシンガポール。日夜、世界の空を飛び回る感ビジネスレディ。いかなるロールに挑んでも、どっしり肝が座っている。断捨離を料理シーンに活かすべくフードロスの転換ビジネスを考案中。
コメント
1~3件/3件
2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。