2022年8月20日、「間庵」講2が開座した。間庵とは、江戸文学者の田中優子さんが庵主となり、松岡正剛座長の「方法日本」を庵主自ら読み解き、参加者である間衆とともに深め、継承していく場である。今期は、ジャパンコンセプトとして「アワセとムスビ」を掲げている。
講2のテーマは「文化と遊ぶ」。「歴史を展く」と題し、『情報の歴史21』や『日本という方法』(角川ソフィア文庫)を手すりに展開した講1につづいて、今回は、1980年代の松岡座長を代表するエディトリアル・ワークである『アート・ジャパネスク』(講談社、全18巻)にひそむ「方法日本」に迫った。
この記事では、講2のうち、田中優子さんによる「庵主レクチャー」の一部を速報していく。
会場となった編集工学研究所(東京・世田谷)の本楼の設え。壇上の両脇には『アート・ジャパネスク』シリーズが並ぶ。
「遊び」こそが文化をつくってきた
江戸の「遊び」の一方には「本業」がある。たとえば本阿弥光悦は、刀の鑑定と磨きの家の主人をしていた。これが「本業」であり、稼ぐための仕事である。他方、光悦は書や陶芸、蒔絵に身を投じ、ときにアートの鑑定に遊んだ。これが江戸時代における「遊び」であり、この「遊び」からうまれたものが日本文化として現在に引き継がれているのである。
こうした「遊び」から生まれたアートから、どのような日本文化や日本ならではの方法がうまれてきたのか。田中庵主は『アート・ジャパネスク』によって引き出されたという、次の3つの切り口を紹介した(本記事で用いられている図版はレクチャー資料より)。
1.文字と絵と紙
江戸のアートは文字と絵と紙の「アワセ」でできている。特に「紙」の文化は日本のアートの一部であると強調したい。現状では、紙はあくまで職人の世界とみなされてアートとは理解されていない。
例えば『アート・ジャパネスク』15巻(下図)には、一部分がクローズアップされた浮世絵の写真がある。内容そのものはキスシーンだが、それよりも紙の質感に思わず目が向いてしまう。『アート・ジャパネスク』では、江戸のアートにとって欠かさえない要素である「紙」の魅力を随所に感じることできる。
多くの美術全集では作品全体を撮影することが一般的であるのに対し、『アート・ジャパネスク』には日本アートの「超部分」に迫った写真が少なくない。『アート・ジャパネスク』シリーズでは、このような写真の「撮影方法」にも注目したい。
2.場所と風景
次に日本の「ムスビ」について。「風景」によって一つのメッセージが結ばれていく例を紹介する。
『アート・ジャパネスク』10巻に載っている国宝茶室「如庵」の一連の写真(下図)に注目してほしい。ここでは露地にはじまり、井戸や蹲居、にじり口までが収められている。このように、露地から茶室へと至る足どりを含めて写真にしている美術全集は他にはなかなかみられない。こうした撮影方法によって、日本の本来の茶のあり方を、より一層イメージできる。
3.文様と装い
松岡正剛が編集スタッフにむけた「3つのお題」
松岡座長は、『アート・ジャパネスク』の依頼を受けるにあたり、「既存の美術全集の画像が気に入らない。アートは全部撮る」「撮影はファッションやコマーシャルの写真家に任せる」「エディティングスタッフは全員アマチュアでいく」とオーダーを出したという。
庵主レクチャーのおわりに、松岡座長が『アート・ジャパネスク』の編集スタッフにあてたという3つのお題を明かした。
1.古典を勉強する。とりわけ室町時代の北山文化と東山文化の違いについて。
2.狩野長信の「花下遊楽図屏風」に徹底して学ぶ。
3.「歌枕」や「和歌」を通じて、日本の風景の切り取り方を学習する。
「今は、アート全体に文字や和歌がない。いつからか、日本で文学と美術がわかれてしまった」と、現在の日本アートが抱える課題を語る松岡座長。「日本の美術を学習することも大事。今日のアートの中に言葉や歌を入れることはもっと大事。さらにいうと、たとえば現代のきゃりーぱみゅぱみゅの衣裳の中に日本アートを見いだすことは、さらに大事」(松岡)
▶︎次回の間庵は9月23日(金・祝)開催。詳しくはこちらをご覧ください。
(写真:後藤由加里)
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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