2021新春放談企画「エディスト・フェーズがついにきた!」 其の肆 -千悩時代に多読あり

2021/01/04(月)07:00
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吉村: さて、3人目のゲストは、2020年に多読ジムをスタートした冊匠こと大音美弥子師範です。

 

上杉: 20周年の感門之盟で、お悩みに本で応える“サッショーしまっせ”というコーナーを担当されたことがきっかけで、新コーナーがEdistで始まったんですよね。その名も「千悩千冊」。

 

新企画!「千悩千冊★サッショー・ミヤコがご相談に回答します」

 

金: 感門之盟では、僕が大音サッショーとコーナーをやったんですが、コチラは井ノ上シーザーがEdist連載の旗振り役。あの番組をかなり気に入ってもらったみたいですね。あれ、僕の企画だったんですけどね(笑)

 

後藤: 感門では外来ザリガニを飼えなくなるお悩みとかに答えたりして、あのコーナーのDustっぽさがシーザーの心に火をつけたのでしょうね。

 

金:  それで、今日は新春放談ということで、吉村編集長のお悩みをサッショーしていただこうかと思ってます。公開千悩千冊です。よろしくお願いします!

 


 

大音美弥子
編集的先達:パティ・スミス。剛腕のブックショップエディター、歴戦のイシス師範を経て、20周年イシスに多読ジム冊匠として凱旋。泣く子も黙るホン・ゴジラとして人々の悩みを本で粉砕し続けている。千夜エディション校正も担当。


 

吉村: じゃあ、早速ですが。なんかこんなお悩みでいいのかと思いつつ、新春は家族で集まる方も多いと思いますんで、家族ネタなんですけども。

 

K.Y.さん(50代男性)のご相談:

今年はコロナで実家に帰省しなかったんですが、母との関係についてなんです。僕はいまだに母親の前に出ると中学2年くらいの母と子の関係に戻ってしまって、50歳にもなって80間近の母親と喧嘩してしまうんですよ。破れたズボンはくのやめなさいとか、髪の毛ボサボサやないのとか、今でも言ってくるんですよ。その度にカチンときてしまう大人気ない自分がいるのです。数年前に親孝行でもしてみるかと、母を沖縄に連れて行ったことがあるんですけど、着いてすぐ沖縄の海を見た瞬間、母が言った言葉、何やと思います?“ああ、ハワイが良かったわ”って言ったんですよ。

 

大音: それは息子に最高のものを求めているという、母親としてのあわれじゃないですか。

 

吉村: いやいや、ほんまこのオカンは人間が出来ていないなと思っちゃったんですが。親しき中にも礼儀ありやないかと。

 

大音: 息子にないものねだりをするところが母らしくていいじゃないですか。長谷川眞理子さんの『クジャクの雄はなぜ美しい?』(紀伊国屋書店)という遺伝の本があるんです。クジャクはオスが華やかで、メスが地味なんですよね。母親が、美しい遺伝子を選んで息子に美しくなってほしいという、その連鎖がずっと続いているという壮大な話なんです。また竹内久美子さんも書かれていますが、『女は男の指を見る』(新潮新書)とかね。母は息子にかっこよくあってほしいんですよ。

 

吉村: ああ、そうですね。母は何を思ったのか、僕に子供時代からかっこよさを求めていました。

 

吉村: 外交官になれといわれていたんでしょう?

 

吉村: そうそう、外交官特権があるからええでとか、そこは打算的なんです。散髪に行く時は、清水健太郎みたいに切ってもらえ、段カットにしろとかね。それが母にとってはかっこよかったんでしょうね。

 

大音: ほらね。そういう母の気持ちはありますよ。母親と息子の関係は多くの文学にもなっていますね。

 

サッショー・ミヤコがお応えします

 

大音: 1冊目は、そういう母親に応えたくて自滅した息子の話。ロマン・ガリの自伝小説『夜明けの約束』です。映画も同じタイトルで、昨年リメイクで公開された邦題は『母との約束、250通の手紙』でした。母はユダヤ系のシングルマザーでフランスに流れてくるが、母からはお前は軍人になって戦争が終わったら作家になると決められて、お前ならなれると言われつづけて、実際そうなっちゃった。そのあいだに、外交官にもなっていて、しかもハンサムで、というね。映画がすごく評判がよくて、原作はゴンクール賞を史上初2回とっているすごい作家なので、お薦めしたいです。読んでもらいたいな、わたしは読んでないけども(笑)、という感じです。

 

 

吉村: 自滅してるじゃないですか!でも私は主人公と違って、母親の期待に何も答えられなかったんで、全く違うんですが。すべて母親が言うことと違うことをやっていて、そんなことしてたらお父さんみたいになってしまうで~、とずっと言われていたんですが、本当にお父さんみたいになってしまったんです(笑) 死んだ親父は定職にもつかずにフラフラして、夜逃げを繰り返し・・(この後、延々と続く)

 

一同: (爆笑、失笑もしくは絶句)

 

大音: めちゃめちゃかっこいい話じゃないですか。それは自伝を書くしかないですね。林頭が読むよりそれを描くのがいいんじゃないですかね(笑)

 

吉村: その人は期待に応えたから自滅したんですかね。

 

大音: そうですね。それとは逆に、反発したというのが鶴見俊輔。だいぶ古いですが、この人の母は後藤新平の娘だったんですね。鶴見俊輔は、母に尊い人になってほしいと育てられた人でした。お母さんは人の上の上に立つことをイメージしていたようで、鶴見は小学校に入る頃からそれに反発していたんですよね。母にも父にも反発して、不良少年時代を過ごしたのが彼の自慢なんですよね。それだと単なる不良少年で野垂れ死にするところだったのを、鶴見が問題をおこしたときにこの子はアメリカにやってしまおうという結論になって、彼はアメリカに渡ってすごく勉強します。第2次大戦が終わっていない頃に日本に戻ってきます。アメリカに残る選択肢もあったんですが、負けていく日本で死にたいと、勝つ側に残りたくない、日本人なのにアメリカ人のふりをしてこれからの日本人を指導することをしたくないと帰国した。かっこいいでしょう?『日本人は何を捨ててきたのか: 思想家・鶴見俊輔の肉声』(鶴見俊輔, 関川夏央/筑摩書房)、ぜひ読んでください。こちらは、関川夏央さんと鶴見俊輔さんの対談です。

 

吉村: そうですね。今からそんな人物になれるわけはないですが。2021年の次の多読ジムで、ぜひ自分の課題本として読んでみたいと思います。ありがとうございます。

 

川野: 公開お悩み相談いいですね。新春にしては深いお悩みでしたね(笑)。

 

金:  多読ジムと言えば、2020年の1月から多読ジムがはじまって、ちょうど1年になります。「冊匠」になられてどうでしたか。

 

 

大音: 多読ジムがあるのとないのとで全然違いましたね。多読ジムの中では、昨年、多読10選を、2019年の春・夏あたりはやっていたんですよね。それがないと、ちょっと物足りない。Best10はもう一度やりたいと思いますね。

 

堀江: 私は第1期に参加していたのですが、その後、雰囲気に変化はありますか。

 

金:  微妙にマイナーチェンジしてるんですよね。たとえば、以前松岡校長がやられていた“セイゴオひび”のように、今は大音冊匠が多読ジム参加者に毎日1つずつメッセージを届けてくれてるんですよ。

 

大音: 毎シーズン9~10のスタジオがあるんですが、その中からいいコメントを選定して、この日の一言はこれ、ということを発表して、余白に綴っているんですよ。

 

金:  これをやってくださってるので、冊匠は全体を見てくれている安心感もあるし、その一言から多読ジムの全体や今も分かるんです。それ自体がEdistの記事になるかもしれませんね。

 

大音:  堀江さんが参加していた2019年の初期には、自分のスタジオの様子しかわらなかったじゃないですか。それが、今は横の教室が何をやっているかが分かるようになったんですね。昨日こんなことがあったんだとか、いまこういうことに隣の教室は取り組んでいるとか。

 

金:  2021年は、冊匠はどんな年にしていきたいですか。

 

大音: そうですね、強いて言うなら、寄せられるお悩みが少ないことが悩みなんですよ(笑) 広く募集しているんですけれどもね

 

吉村: ほんまのお悩みだとディープになってしまうのかもしれないですね。意外にお悩みを出すのが難しいんですかね。

 

後藤: みんなお悩みだらけだと思うんですけれど。

 

金:  うまくお悩みを引き出せたらいいですけどね。皆さんお悩みは?

 

後藤: 私は1つあるんです。Edistの10ショットというコーナがあるんですが、パターン化してるなぁと感じていて。どうしたらいいでしょうか。パターンに自分でも飽きてきていまして。

 

松岡正剛×隈研吾対談 10shot 前篇「代々木競技場に憧れて」

 

大音: じゃあ、宿題にして持ち帰りますね。パターン化というのは何にもありますね、手慣れてくるとね。自分で飽きるというのはその上に行きたいという前向きなお悩みだと思います。

 

金:  僕もお悩み思い出しました。どうしても大勢の前だと言いよどんでしまうんです。

 

大音: 何人ぐらいだとダメってありますか。

 

金:  場にもよるんですが、初めてのところでは緊張するんですよね。5、6人だったら大丈夫かもしれないけれど、人数よりも場所とかですかね。

 

大音: 晴れの場に弱いってこともありますか?

 

金:  弱いし、好きじゃないですね。

 

大音: でも、いつもかっこよく決めてるじゃないですか、感門之盟とかでもね。言い残したことが気になる感じがありますか?

 

金: それもあるかもしれないです。

 

松原: なんか、オンライン・セッションならぬ“オンライン・サッショー”やりたくなっちゃいますね。

 

川野: 公開番組か、ラジオエディストしたらいいですよね。

 

松原: はい、こうやって聞いてもらえることもいいですし、サッショーからポツポツとQ(問い)を出していただくだけでも、悩める人々の思考が整理されていくような。

 

後藤: せっかくですから、新春のお悩みをお一人ずつお伝えだけでもさせてもらったほうがご利益があるような気がしてきましたね。穂積さんはどうですか?

 

穂積: 僕は断るのが苦手で、いつも自分の首を絞めちゃう。

 

吉村: 体壊すとしたらそのせいですよね。編工研は強い女性が多いですしねぇ(笑)。堀江さんは?

 

堀江: さっきの金さんの悩みはまさに僕の悩みですね。人の前がだめなんで。

 

後藤: ああ、私の悩みでもあります。自分が中心にならないといけない場面はハードですね。

 

大音: もしかすると汁講とかでも、師範代が自分で仕切らないといけないというようなこともありますか。そうすると師範代に共通かもしれませんね。どうやって場を回すかということもかな。

 

金:  僕はこれもあれも言わなきゃと思ってしまうと緊張しますね。状況によりますけれどね。

 

大音: フレームをどう引くかということですね。そこから染み出していくものの扱い方が松岡校長はすごくお上手だと思います。かならずそこから拾ってくる。私たちも真似したいところですね。

 

堀江: 校長がよく人前で話すのは苦手だったとおっしゃいますけど、それはないだろうと思ってしまいます。

 

大音: おっしゃいますね。校長はご自分の映像を後でチェックされますが、あれが上手くなるコツだと思います。

 

金:  明石家さんまさんも必ず出演した番組を見るって有名ですよね。

 

吉村:  昔のことですが、連塾が終わった後に、撤収後に赤坂のオフィスに戻ってからもう一度その日の録画全部を見直すんですよ。当時、僕は編集工学研究所にまだ入りたてで、終了後に松丸本舗に橋本と借りた書籍を戻して、夜中の3時ごろにようやく終わりましたと連絡をしたら、じゃあ今からオフィスに戻ってきて、みんなで映像見てるからと言われて、度肝を抜かれた記憶があります。

 

金:  最近リモートでやる時はだいたい録画されているので、ダメだったかなと思った時には自分を確認するときがあります。そういう時は意外と大丈夫で、見てホッとしますね。

 

堀江: 自分がしゃべっている姿を見ると、声も違うし、打ちのめされると思いますね。

 

川野: 20周年感門の田中圭一先生との堀江さんの対談、いい対談でしたよ。

 

大音: ちなみに、川野さんはあんまりお悩みないでしょう?

 

川野: 私は…。あまりないですね。

 

大音: そう思った!

 

吉村: 上杉君はどう?

 

上杉: 今住んでいるところが半地下で、初日の出が見えないどころか、日が入ってこないんです。体が感じる時間がずれて、だんだん朝に起きれなくなってくるのが地味にしんどくて。

 

大音: ドラキュラ状態ですね。

 

吉村: 家を選ぶときの優先順位が違っていたんじゃない?

 

上杉: 下見がいつも夜で…。盲点でした。。

 

大音: その悩みは細かくないと思いますね。日照の関係から鬱病になる比率が高いといいますね。本読んでいる場合じゃなくて外で走りなさいってことかもね。

 

松原: 冊匠、編集部のお悩みを受け止めてくださってありがとうございます。ただ、編集部のお悩みはどれも全く新春ぽくなかったですけれどもね(笑)

 

一同: ほんとだ(笑)

 

松原: 2020年の“千悩千冊”で、大音冊匠とシーザーに記事でお悩み解決をお願いしていきたいですね。

 

大音: わかりました。どうぞお楽しみにしていてくださいね。

 

吉村: では、最後に冊匠から、2021年のエディスト編集部の課題図書をいただけたらと。

 

大音: はい。用意してきましたよ。編集部のみなさんへ、2021年の課題図書はこちらです。

 

吉村: ほう!

 

大音: 『玉電松原物語』(坪内祐三/新潮社)です。2020年のはじめ頃、新型コロナ・パンデミックを知らずに亡くなった、本読み名人坪内祐三さんの残した昭和40年代クロニクルなんです。四谷軒牧場に始まり、新旧二軒の書店、電気屋で買ったレコード、初めてできた洋食屋の噂を通して、半世紀前の赤堤界隈ののどかな空気を呼吸できます。落合博満がPTA会長になったとか、小ネタも豊富で。続きやあとがきを書けなかった著者に代わり、同じ赤堤出身の吉田篤弘(クラフト・エヴィング商會)がシメの文章を寄稿しているのもあたたかい。いとう良一の挿絵や地図、新潮社による装幀など、坪内さんに贈る気持ちに包まれた一冊です。

 

金:  新春のあったかいプレゼント、ありがとうございます。

 

上杉: 情報の歴史プロジェクトに携わる者としては赤堤界隈のクロニクルと聞いて気にならないわけありませんね。

 

後藤: あぁ、このような歴史を画として記録していきたいです。冊匠は、どれぐらいの本を読まれているんですか。

 

大音: 松丸本舗でブックショップ・エディターをしていたときに、そこにあった本の全部は読めないと思って。そこから、表紙だけを読むとか、目次だけから読むとかということで情報を網羅していくようになりましたね。

 

吉村: 松丸では大音さんに薦められたといって、みなさんたくさんの本を抱えて並ばれていましたね。

 

後藤: 私もその一人でしたね。たくさん買わされました(笑)

 

大音: 編集は不足から始まるということですよ(笑) 2021年も、皆さんと悪あがきしていきたいと思います。ではでは、今後ともよしなにお願いいたします。

 

吉村: こちらこそ、引き続きEdistでもご一緒ください。

 

 

其の伍へつづく

 

2021新春放談企画「エディスト・フェーズがついにきた!」

其の壱 -不足から編集が始まった

其の弐 -師範代ライターの初誕生

其の参 -ランキング独占、マンガの模写

其の肆 -千悩時代に多読あり

其の伍 -編集的可能性の苗代へ(1月5日公開)

 


  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。