いかにして平凡を脱するか 「感」から生まれる創文を【47[破]知文AT閉幕】

2021/11/08(月)09:18
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諍いが起こる。あなたは細長いピンを取り出す。あたかもPCR検査のように、ぐっと相手の鼻に突き立てる。次の瞬間、ふたりは肩を組んでいる。

「それにしてもこんな便利な道具がない時代だなんて 一体どうやって誤解やすれ違いを解決していたのかしら」 (九井諒子『ひきだしにテラリウム』「すれ違わない」より)

漫画家・九井諒子は描いた。テクノロジーによって人々の摩擦が消滅するツルリとした世界を。果たしてこれはユートピアなのだろうか。

 

■ 読書は交際

  創文にはリスクを
  
言葉を使わずに完全なる同調をもたらす魔法など、イシスには必要ない。イシス編集学校応用コース[破]では、昨日11月7日(日)18時00分、アリスとテレス賞のエントリーが締め切られた。自分の読んだ1冊の本を、読んだことのない人へ届けるために800字の創文をする。そのセイゴオ知文術がお題だった。学衆たちは、最大600ページのSF小説『万物理論』や、33篇のマンガ版ショートショート『ひきだしにテラリウム』の魅力を、原稿用紙2枚に見事圧縮してみせた。稽古したのにも関わらず課題本を取り違えたり、仕事の都合で仕上げが叶わなかったりした無念の学衆も多々。賞レースにエントリーしたのは、学衆80名中68名。

 

その道程は熾烈。原稿完成までは、師範代の指南を受け続ける。それがまったく甘くない。10月末、初稿を眺めた師範代新井和奈は「本の紹介としては上出来」とつぶやきながらも、「まだ『セイゴオ知文術』には至っていません」と突き返した。「〜〜のように感じる」など腰が引けた表現があれば、「リスクを取って言い切りましょう」と警策で打つ。おなじころ師範代清水幸江も学衆に詰め寄っていた。「推敲が進んだので、そろそろ『かもしれない』を終わりにしましょう」「途中の『感想』は要りません」「あなたはどう思いましたか?」「『陽水だ』『ぐるぐるしようぜ』くらいでちょうどいい」と、自分の読みを断言するよう迫った。

 

創文の決め手になるのは、不純物のない本の要約ではなく、一人ひとりがその本と付き合った生々しい体験なのだ。校長松岡正剛は言う、「読書は交際である」。課題本という相棒と、読者のわたしのあいだに生まれたコミュニケーションこそを読みたい。10名の師範代は学衆を揺さぶりつづけた。

 

 

■ 編集は、問感応答返
  「感」から生まれる編集を

 

エントリー作品はすでに集約され、月匠木村久美子を含む11名の選評委員の手元に渡る。選評委員たちは、作品をどう読み、講評をどう書くのか。締切数日まえ、ふだんはAT賞の講評でしか姿を見せない評匠が、[破]別院で公開座談会を開いていた。その名も「hyo-syoチャンネル」。『インタースコア』にも顔写真入りで掲載されている中村まさとし、高柳康代、関富夫の目利き3名である。評匠と学衆の距離が、かつてないほど縮まっていく。学匠原田淳子は「今期の事件になりそう」とほくほくしている。


俎上にあげられたのは、お題1-02番《いじりみよ》の回答。あるテーマを《位置づけ・状況づけ・見方づけ・理由づけ・予測づけ》に分け、論を組み立てる型である。IT技術者である関は、「《いじりみよ》は熟練の詐欺師か、腕の立つ営業マンであってほしい」という言葉を引き、ロジックの通し方を強調した。しかしそのいっぽうで、ロジカルな整合性を求め《予測づけ》がありきたりになっていると不満げだ。

高柳は「みなさん、このテーマをほんとに気になっているのかな?」と引き取る。うわべの興味は看破されている。書き手自身のヴィヴィッドな感覚こそが、生み出す表象をもカラフルに染め上げるのだ。オブザ・ベーション教室学衆Fは説得力のある論を組み立てたが、それは「社内経営陣にプレゼンをするとしたら?」とリアリティのある場面設定をしていたからだった。脱・平凡の方法として高柳は、「『自分の問題だ』と思った瞬間の感覚」を大事にすることを挙げた。

 

中村は、インパクトを狙ってモードで遊ぼうとする傾向に警鐘を鳴らした。「つまらない素材をいくらモードで化粧をしても限界があります」「きっちり言葉を選んで彫琢すれば、それがダンゼンになります」 平凡を打破するためには、創文の基礎から丹念に方法を積み上げるのが近道だと語った。自分の《感》のアンテナを立て、編集術でそれを鮮烈に《応》じること。編集は《問感応答返》なのである。

 

47[破]は次なるお題、クロニクル編集術へとコマを進める。ここから学衆たちは、5W1Hという基本の型を飽きるほど使い、「いつもと変わらぬわたし」を打破する。「歴史的現在に立つ自分」と出会う時空旅行が始まった。

 


■47[破]アリスとテレス賞エントリー 課題本人気順


1位『悪童日記』13名
2位『オリガ・モリソヴナの反語法』9名
  『辞書になった男』9名
  『雪の練習生』9名
3位『フラジャイル』7名

  『ひきだしにテラリウム』7名 
4位『椿の海の記』5名
  『イヴの七人の娘たち』5名
5位『万物理論』3名
6位『文字逍遥』1名

以上エントリー総数68名

 

[寸評]今期課題本入りを果たした『フラジャイル』に7名が果敢に挑戦。『悪童日記』『オリガ〜』は例年どおりの高人気。42[破]以降、大賞作を生み続けた常連『文字逍遥』が珍しく敬遠される展開に。

 

※課題本一覧

スラスラ書くな、モヤモヤ足掻け◆作文・創文・知文のヒント【46[破]課題本一覧】

 ⇒今期は『稲垣足穂さん』に代わり、『フラジャイル』(松岡正剛著)が課題本入り。

 

アイキャッチ:松岡正剛の手書きレジュメ(原田淳子セレクト)


  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで絶賛編集力向上中。今、最も旬なエディスト「うめこ」のこれからの活躍に刮目されたし。47[破]番記者、36[花]錬成師範。