本に呑まれて珈琲を読む EDIT COFFEE-前編

2021/09/21(火)21:30
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角川武蔵野ミュージアムで、セイゴオ好みのコーヒーが発売された? しかもエディットタウンのそれぞれの味がコーヒーになった! と話題のEDIT COFFEE。開発者の和泉佳奈子さん(百間/松岡正剛事務所スペシャルパートナー)によると、松岡校長が最近、好んで飲んでいるのは<ET8 お帰りなさいの味>だとか。個性あふれるどの一杯も「冷めるにしたがって甘みが増しておいしさがいつまでも続く、読書にぴったりなブレンド」に仕立てられている。
あらゆる読書に物申す、多読ジムサッショーが黙っていられるわけもなく、このほど「EDIT COFFEE試飲隊」を結成した。イシス歴も年齢・職業もさまざまなメンバーのテイスティングぶりや、いかに。

 

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●case 1: 近江から風をおくる阿曽祐子さんのテイストは<ET5 一途で多様な味>


14離退院の知熱がひとしお残る阿曽さんが選ばれたのは、ET5【日本の正体】を表現する「にほんのきほん 一途で多様な味」。

ひとくちめに深みがやってきて、やがて爽やかさが躍りだします。ダンスの余韻がいつまでもふんわりと包み込んでくれます。朝いただけば、たくさんの出会いの前ぶれ。お昼ならひたむきな活力、夜なら華やかな夢が届くことでしょう。

 

多読ジム歴1シーズンの阿曽さんがお勧めするコーヒー本は:『食卓一期一会』長田弘(ハルキ文庫)

 

厳しい安保闘争を経験した詩人が、食卓にあがる食べ物の過去・現在・未来を柔らかい言葉で紡いだ一編です。アラビア半島からの長い旅路を果たしたコーヒーからは、生と死が立ち上がります。生きる人間と食される生物の「いのち」と「いのり」をたっぷりと浴びれば、まちがいなくやさしさが息を吹き返すことでしょう。

 

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●case 2: シバセンでおなじみ米川青馬さんのテイストは<ET3 超思考の味>


人気記事執筆やお題改編の合間に選ばれたのは、ご自身も携わったET3【むつかしい本たち】をあらわす「世界を深読みする 超思考の味」。

それぞれ違いがありながら全部おいしかったですが、特に好みなのは甘みや果実味を感じられるコーヒーです。

 

遊刊エディスト・ファンには「シバセン」で知られる芝居好き&本好きの米川さんは、エディットタウンの選本にも中核メンバーとして参加した。そんな目利きご推奨のコーヒー本は:バルザック『ゴリオ爺さん』(光文社)

 

1日なんと50杯(!)のコーヒーを飲みながら膨大な量を書きつづけたバルザックの小説には、特にコーヒーは出てこないのだけれど、読んでいるとどこからともなくコーヒーの香りが漂ってくるような。

 

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case 3: スーパーモデル登場? 小川玲子さんのテイストは<ET6 秘めごとの味>

 


揺れるまなざしで選ばれたのは、非力なサッショーをささえて選本されたET6【男と女のあいだ】風味の「運命も宿命も本命も 秘めごとの味」。

コーヒーは、わたしを満たしはしない。
 絡み合う香りも、思い出を想起させる甘みも、ひとつところに留まろうとする後ろめたさに気付かされるだけ。生暖かい場所から強引に心地よさを奪い取り、動くことを、進むことを強要するのです。拒むことなど到底できるはずもなく、ただ促されるままに靴をおろす。そのたびに、これから出会うはずの新たな知への愛と畏怖に満たされるのです。

 

女優やモデルではなく、小川さんは元松丸本舗BSE。やはりエディットタウンの選本に携わり、とくにサイエンス系の書籍に対する知識と愛は、セイゴオ先生のお墨付きを得た。そんな彼女のお勧めのコーヒー本は:『明るい部屋 写真についての覚書』ロラン・バルト(みすず書房)

 

「写真」は暴力的だと著者はいう。撮影の度に、強引に画面を満たすからだと。被写体の少年は何も見ていないと著者はいう。愛と恐れを心のうちに引き止め、写真の「まなざし」とはそういうものであるからだと。亡き母に捧げた鎮魂歌であり、探究の方法を探求する物語。秘められた真実に、コーヒーの纏わりつく甘味とともにそそのかされたくなる本です。

 


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日ごとにコーヒーの芳香が強く立つ季節、後編にも乞うご期待!

  • 大音美弥子

    編集的先達:パティ・スミス 「千夜千冊エディション」の校正から書店での棚づくり、読書会やワークショップまで、本シリーズの川上から川下までを一挙にになう千夜千冊エディション研究家。かつては伝説の書店「松丸本舗」の名物ブックショップエディター。読書の匠として松岡正剛から「冊匠」と呼ばれ、イシス編集学校の読書講座「多読ジム」を牽引する。遊刊エディストでは、ほぼ日刊のブックガイド「読めば、MIYAKO」、お悩み事に本で答える「千悩千冊」など連載中。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025