次の舞台は宇宙へ!「日本のインターネットの父」が語る、インターネットの過去と未来【ISIS FESTA SP速報】

2022/06/18(土)23:39
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「インターネットが普及すると、ものごとは今までの10倍のスピードになる」

 

この表現は、比喩でも誇張でも、ましてや幻想でもない。実際に起こったことであり、わたしたちが今まさに体験していることである。

 

以下に列挙するのは、コロナパンデミック前の2019年に東京工業大学の未来社会DESIGN機構(DLab)が作成した「未来シナリオ」(Future scenarios)(外部リンク)の一部である。これからテクノロジーの普及・発展によって実現するであろう「ありたい未来」を描いたものだ。

 

<2030年>

・場所の束縛から解放される

・エンターテインメントにおける物語の主人公が私になる

<2040年>

・ほとんどの仕事はオンライン化され、旅をしながら働けるようになる

・おうち完結生活

 

いかがだろう。リモート会議にオンラインイベント、TikTokで自己発信、ウーバーイーツで外出も不要。こうした光景は、真新しいどころか、もはや日常となりつつある。コロナ禍を経て、わずか2年あまりで「20年後のありたい未来」が実現してしまったのだ。

 

こうした未来が実現した理由は、「全ての人がインターネットを使うようになる」という前提がコンプリートしたからである

 

2022年6月18日のISIS FESTA SP「『情報の歴史21』を読む」で、このように口火を切ったのが、情報工学者の村井純さんである。

 

村井さんといえば、1984年に電話回線を用いた日本初のコンピュータネットワーク「JUNET」を立ち上げた人物。「日本のインターネットの父」とも呼ばれ、現在も内閣官房参与(デジタル政策担当)やデジタル庁顧問として現場に立ちつづけている。

 

英語圏では「インターネット・サムライ」というニックネームで呼ばれるという村井純さん。松岡正剛が座長をつとめる超編集プラットフォーム「Hyper-Editing Platform[AIDA]」のボードメンバーの一人でもある。

 

今日のイベントでは、インターネットの歴史の黎明から今後の展望までを、村井さんが注目するキーパーソンやキーコンセプトをまじえてお話いただいた。

 

ここでは、村井さんがとりあげたキーパーソンやキーコンセプトの一部を、会場に同席していた松岡校長のコメントとともに紹介する。

 

 

「人間が思いついたことはコンピュータで解決できる」

〜UNIXと二人の開発者〜

 

「UNIX」は誰でも参加ができるホリゾンタルなプラットフォームとして標準化されたオペレーティング・システムである。現在普及しているパソコンもスマートフォンのほとんどが、このOSを祖先にしている。村井さんは「UNIX」の開発者で、友人でもあるケン・トンプソンとデニス・リッチーの功績を紹介する。

 

ケン・トンプソンは、開発したUNIXのソースコードをカリフォルニア大学バークレー校の学生にわけへだてなく共有する。このはからいが、バークレーの生徒による新たなバージョンのUNIX開発へとつながっていった。

 

デニス・リッチーは、C言語の開発だけでなく、「ファイル」や「フォルダー」という、コンピュータの大前提となっている階層構造を考案。文字や音声、映像などあらゆる情報をデジタル化して一緒くたに扱える、現在のコンピュータとソフトウェアの概念をつくった人物である。

 

「人間が思いついたことはコンピュータで解決できる」。二人の思想の根本はここにあった。

 

ケン・トンプソンとデニス・リッチーの二人が再編集をし、「UNIX」という形をつくったことによってはじめて、誰もが使用できるようになった。情報技術は縁の下の力持ちと思われがちだが、もっと評価やリスペクトされていい。

ー松岡正剛

 

ケン・トンプソン(左)とデニス・リッチー(右)。村井さんは「友だちシリーズ」という、友人の経歴を紹介するためのスライドをつくっている。本講演では、この二人の他に、ビル・ジョイ、ヴィントン・サーフ、ジョン・ポステル、テッド・ネルソン、ティム・バーナーズ=リー、ホイットフィールド・ディフィーなど、錚々たる面々が名を連ねた。

 

 

日本語表記と縦読みブラウザー

〜日本でありながら普遍へ向かう〜

 

村井さんは、UNIXを開発したベル研究所メンバーと対話を重ねることで、英語中心だった初期のインターネットを、日本語を含めた多言語対応へと導いた。もし村井さんがいなければ、「インターネット上での日本語表示」という、わたしたちが当たり前のように享受している今日の姿はありえなかった、といっても過言ではない。そしてそのことは、日本語に限らず英語圏以外のすべての言語においても同様である。これだけでも、村井さんがインターネットの基礎となるOS環境に与えた影響は計り知れない。

 

さらに村井さんは、日本語に対応したウェブブラウザの「縦書きレイアウト」を考案し、国際標準化と普及の推進活動をしている(ちなみに中国は縦書きレイアウトからは撤退した)。インターネット上での言語の多様性実現をめざす、意欲的な取り組みである。

 

技術や思想や文化は「そこ」に立ち会わないといけない。村井さんは日本を貫いている。日本人はこれまでの歴史でも五族協和型でテリトリーをつくりがちだったが、村井さんはそうならないために、世界でひとつでグローバルな「インターネット」が必要だと考え、今もなお「そこ」に立ち会いつづけている。これが村井さんの思想のすごいところであり、そこをもっとみなさんにも理解していただきたい。

ー松岡正剛

 

村井さんの母校の創設者でもある福沢諭吉の『西洋事情』。左のページの挿絵では地球全体に電柱が張り巡らされ、その上を飛脚が走っている。「欧米の電信をみて、すでに日本も地球全体=グローバルの一部であるという意識を福沢諭吉はもっていた。1866年にしてそのことを把握していた福沢諭吉は、すごいを超えておそろしい」(村井さん)

 

 

エッジコンピューティングで舞台は宇宙へ

〜インターネットのこれから〜

 

インターネットの歴史そのものを文字通り歩みつづけている村井さん。いま注目しているコンセプトの一つに「エッヂコンピューティング(Edge Computing)」があるという。これは、全ての情報をクラウドに集約しクラウド上のサーバーで処理をする従来の手法とは異なり、端末やサーバーなどのネットワークの周縁=エッジ部分でデータ処理をする「分散コンピューティング」の概念である。

 

講演の最後に、村井さんが期待を寄せているという「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」が紹介された。これは成層圏をの遥か上の「宇宙空間」の舞台にした分散コンピューティング・システムだという。

 

「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」のコンセプト動画。このネットワークはNTTとスカパーJSATが構築をしており、実現すれば超低消費電力、超高速通信、高セキュアなネットワークが現実のものとなるという。

 

福沢諭吉の『西洋事情』から、ケン・トンプソンやテッド・ネルソンなどを経て、宇宙までをつなげながらインターネットがどういうものかを語れるのは、村井さんだからこそ。

現在「編集」という言葉は、コンパイル(compile)とエディット(edit)とコーディファイ(codify)とに分かれている。僕は「エディット」を、3つの違いを超えたキーワードにしていきたいと考えているが、そのあたりは村井さんに託したいと思う。

ー松岡正剛

 

「あと二倍は話を聞きたい」と村井さんへ語りかけている校長松岡。村井さんと松岡校長とは、2011年のデジタル庁始動によせて、「日本とデジタル」をテーマに「松岡正剛×村井純 スペシャル・ロング対談」(※外部リンク)をした間柄でもある。

 

 

次回のISIS FESTA SP「『情歴21』を読む」の開催は、7月22日(金)夜。ゲストには、作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏をお招きする。

 

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  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。