道元のクロニクルは、図象化になぜ5ヶ月を要したのか【輪読座第五輪開催中】

2022/02/27(日)17:32
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ようやく「道元の時代」までたどりついた。座衆は心中そう思っているに違いない。

 

毎月最終日曜のイシスの恒例となっている輪読座が開催中である。昨年10月から始まった「道元を読む」は、来月に最終回を控える第五輪にして、ようやくバジラ高橋の図象に道元のクロニクルが登場した。講座の開始から約5ヶ月が経過してのタイミングである。そのクロニクルも、保元の乱(1156年)、平治の乱(1160年)源平の乱(1180〜1189年)と、道元が誕生する1200年以前の戦乱の連打から記述をはじまっている。

 

「ここまでやらないと道元はわからない」と、バジラ高橋はその理由を明かす。

 

道元にとっての仏は、釈迦からはじまり、道元の師匠までずっとつづいてきている。仏のありようは時代によって変動するが、仏たちは常に前の仏を乗り越えようとしてきた。道元も例に漏れずに古仏に学び、古仏を超えるべく編集をしつづけてきた。(バジラ高橋)

 

この視点で振り返ると、禅の起源のブッダ(第一回)から中国禅始祖の西天二十八祖達磨(第二回)を経て、曹洞宗祖の洞山良价(第三回)、五代十国時代の禅宗五家(第四回)、本日の道元(第五回)へと、座衆が禅をめぐるクロニクルを多軸多層につかめるようにバジラが図象を組み立ててきたことがわかる。

 

中国と日本では文化の違いがあるように、同じ日本でも穏やかな時代と戦乱の世では生き方が同じではないように、道元の生きた戦乱の日本と私たちの生きる現在とでは状況は大きく異なっている。だからこそ、バジラ自身も道元の編集に肖りながら「道元を読む」をつづけているのである。

 

そこまで尽くすバジラが何より楽しみにしているのは、道元のエディティングフィルターを踏まえて「今を編集しつづける座衆の姿」なのだろう。


座衆の力作の図象に思わず笑顔がこぼれるバジラ高橋。毎回設けられているワークタイムでは、座集はバジラの図象解説や輪読した『正法眼蔵』の内容を踏まえ、わずか20分足らずで一枚の図へ高速編集する。

バジラ「みんなのほうが僕より図象がうまくなってきていて困るなぁ」

吉村林頭「でも、仏を超えるのが禅ですから」

バジラ「ああそうか。あはは」

 

『情報の歴史21』より、1150年(左)と1200年(右)のページの一部。この頃日本でも争いと混乱がつづいていたが、反十字軍のエルサレム占領(1187年)やチンギス・ハンの大遠征開始(1208年〜)など、大きな変革が起こっていた。『情歴21』の時代タイトルも、「支配と交易(1000〜1199年)」から「内省か観察か(1200〜1299年)」へうつり、道元の誕生した1200年前後で大きなパラダイムシフトが起こっている。

 

(撮影:阿久津健)

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025