【多読ジム×春秋社】北斎も摩多羅神もベートーヴェンも 出版コラボ企画「エディストチャレンジ」

2022/09/28(水)12:00
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多読ジムが出版社とコラボする企画「”版元コラボ”エディストチャレンジ」も第三弾を迎えました。第一弾の太田出版、第二弾の工作舎、そして今回、第三弾のコラボ出版社は春秋社に決定しました。
台風去って、猛暑は過ぎ去り、ひんやり秋風の涼しい季節となってまいりましたが、春秋社のブックセレクトは「北斎・芭蕉」に、「摩多羅神」、「ベートーヴェン」と、まさしく”猛書”揃い。「本まみれの読書の秋」にピッタリです。

https://edist.isis.ne.jp/just/tadokugym_season12/

 

さて、毎度繰り返しにはなりますが、「エディストチャレンジ」の概要をあらためてご説明します。

エディストチャレンジは、コラボ出版社の編集者さんが選本した”トレーニングブック”をもとに、三冊筋のエッセイを書く、というお題です。多読ジムの受講者であれば誰でもエントリーすることができます。
そしてエントリー作品の中から佳作として選ばれた作品は、イシス編集学校のウェブメディア「遊刊エディスト」に掲載されるとともに、出版社のSNS等でも取り上げてもらいます。さらに、その中から最優秀作品を選出し、アワードの発表も行います。記念すべきコラボ第一弾の「それチン大賞」(太田出版)は石黒好美さんが受賞しました。

https://edist.isis.ne.jp/dust/sorechin_interview01/

 

さらにさらに、今回は賞品もあります。実は、エディストでは公開しておりませんでしたが、第二弾の多読ジム×工作舎でも優秀賞の受賞者には賞品がでます。工作舎ならでは、超貴重本の『遊 1001号 相似律』です。

第三弾の賞品もどうぞお楽しみに。

 

◉ ◉ ◉

 

それでは本題のトレーニングブックのご紹介です。
春秋社の編集担当さんが推薦文を届けてくださいました。

 

◎山本ひろ子『摩多羅神(またらじん)――我らいかなる縁ありて』

本体3500円+税
A5判/上製 400頁 2022年8月刊

常行堂の隅に秘密裏に祀られ、魔から行者を守る謎の神。この由来も知れぬ異神をめぐる神話学者・山本ひろ子先生の30年にわたる探究の旅が、何人もの担当編集者の代替わりを経て、ついに結実したのです。中世から受け継がれた信仰と芸能の結ぼれをご堪能いただければ、歴代担当も浮かばれます(死んでない)。


◎マーク・エヴァン・ボンズ『ベートーヴェン症候群――音楽を自伝として聴く』
本体3500円+税
四六判/上製 424頁 2022年4月刊
音楽を――クラシックに限らずジャズやロック、ポップスやラップでも――作り手(歌い手)の人生あるいは主観性の反映として耳を傾けるのは、半ばフツーのこととなっている。こうした傾向に「ベートーヴェン症候群」と名づけ、その起源と発展を追った本書には、あらゆるジャンルの創作と受容をめぐるヒントが見いだせるはず!


◎恩田侑布子『渾沌の恋人(ラマン)――北斎の波、芭蕉の興』

本体2300円+税
四六判/上製 272頁 2022年4月刊

最小の詩型を起点に、創造の源泉へ。絵巻、浮世絵、能、茶の湯、時間論、宗教思想――軽妙洒脱かつ濃密な文章に誘われるまま縦と横の糸をたどるうち、読み手自身が時空を超えた壮大な入れ子構造の中に入り込んでいるかもしれません。一冊の本が世界の見方さえ変える…そんな可能性を感じさせてくれる作品です。


三冊すべて、今年2022年に発刊されたできたてほやほや、ピカピカの本たちです。とくに『摩多羅神』は8月に出版されたばかり。著者・山本ひろこさんといえば、千夜千冊1087夜『異神』でも取り上げられていますね。

山本ひろ子ファンの代将も以前に『異神』から牛頭天王をピックアップして三冊筋プレスを書きましたが、ただし、この『異神』は絶版本なので、中世神話の秘教世界を旅するなら『摩多羅神』こそ夢見る枕にしてください。

https://edist.isis.ne.jp/post/sansatsukin03_quim/

 

『ベートーヴェン症候群』の著者・マーク・エヴァン・ボンズは他にも『「聴くこと」の革命: ベートーヴェン時代の耳は「交響曲」をどう聴いたか』(アルテスパブリッシング)があり、学術誌『ベートーヴェン・フォーラム』の編集主幹も務めたことがあるそうで、どうやらゴリゴリのベートーヴェン主義者のようです。
イシス編集学校のベートーヴェン主義といえば、思い浮かぶのは太田香保総匠ではないでしょうか。エディストには「ルートヴィヒに恋して」というエッセイがあり、その中では『「もし無人島に一冊だけ持っていくなら何の本?」と聞かれたら、迷うことなく「第九の総譜」と答えたい』とも告白しています。『ベートーヴェン症候群』を起点にして、多読ジムにもベートーヴェン・ムーヴメント到来か?

https://edist.isis.ne.jp/nest/otasis_7/

 

『渾沌の恋人』の恩田侑布子さんは、『余白の祭』(深夜叢書社)で第23回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した俳人です。その選考人が松本健一さんでした。

松本さんは、千夜千冊1092夜『日本の失敗』の著者であり、残念ながら2014年にお亡くなりになりましたが、松岡正剛校長が非常に信頼を置き、親交を深めた方でもあります。その松本さんが『余白の祭』について「現在衰弱している文学シーンを刷新するような変革のエネルギーを秘めた作品」と評しています。このレコメンドはただならぬことです。『渾沌の恋人』の書籍案内には、『余白の祭』以来「8年がかり魂の結晶」とあって、これは期待しないわけにはいきません。

ちなみに『渾沌の恋人』はタイトルに「恋人」というメタファーが使われていますが、恩田さんが「十五の時に出逢った初恋の男」はなんと「荘子」だったそうです(「ドゥマゴ文学賞」受賞コメントより)。

 

摩多羅神か、ベートーヴェンか、北斎・芭蕉か、”三書三様”、よりどりみどり、全部読みも結構です。版元コラボへのエントリー、楽しみにお待ちしております。

 

Info


◉多読ジム season12・秋 三冊筋プレス

   「”版元コラボ”エディストチャレンジ」◉

 

∈出版社 春秋社

 

∈トレーニングブック

◇『摩多羅神(またらじん)ーー我らいかなる縁ありて』

◇『ベートーヴェン症候群ーー音楽を自伝として聴く』  

◇『渾沌の恋人(ラマン)ーー北斎の波、芭蕉の興』

 

∈参加資格

 「多読ジムseason12・秋」受講者

 

∈DESIGN the eye-catching image
 穂積晴明

  • 金 宗 代 QUIM JONG DAE

    編集的先達:宮崎滔天
    最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
    photo: yukari goto

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025