【AIDA】KW File.05「反知性主義」

2020/11/30(月)11:00 img
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KW File.05「反知性主義」(2020/11/14.第2講)

本コーナーでは、Hyper-Editing Platform[AIDA]の講義で登場したキーワードの幾つかを、千夜千冊や編集学校の動向と関係線を結びながら紹介していきます。

 [AIDA]の導入講義において、松岡座長は「ヤバイ日本」を4つの論点へと腑分けしてみせた。曰く「制度疲労・人材払底・構造流動・思考固陋」。11月14日に開催された第2講も、安藤昭子氏が4つの論点を言い換え、再編集したフラッグメッセージから始まった。

安藤昭子氏:
思考固陋というのは、思考のプロセスがあるところでぎゅっと束ねられてしまっている状態です。私たちは「そういうもんだよね」という既知、理解したつもりの中で生きている。「社会って、生きるって、そういうもん」。そのひとつ、たとえば成長神話を追い求めた結果が今日の世界です。本日の石先生の話にも通じますね。私たちを囲む環境はどうなっているか。

 第2講のゲストは、『感染症の世界史』の著者である石弘之氏である。目下の脅威であるウィルスをテーマにした手厚い講義は、まさに生命と文明のAIDAを紐解くもので、感染症ひとつを考える上でも総合的な知性が必要になることを、座衆に強く印象づけた。

石弘之氏:
抜きがたい反知性主義が日本にも横たわっていて、我々がちょっと油断すると噴き出してくる。この危機感を、みなさんと共有したいと思います。

 縦横無尽につながれていく石氏の話題の中から、「反知性主義」というキーワードが飛び出した。互いに連関する「制度疲労・人材払底・構造流動・思考固陋」のうち、とくに最後の「思考固陋」について考える上で、このワードは避けて通ることができない。

 知性は、権力あるいは特権のひとつのあり方として嫉まれているのだ。(…)だが、ここでわれわれの念頭にあるのは、知識人というより専門職であるということもできよう。(…)専門職はつねに、操縦されていると感じる人民の憤激を煽り、イデオローグは社会を転覆されているという恐怖をかきたて、近代化にともなうあらゆる暗鬱な心理的ストレスを高める。

◆リチャード・ホーフスタッター『アメリカの反知性主義』31p

 「反知性主義」という言葉については、少し整理が必要だろう。1950年代に使われ始めた言葉で、リチャード・ホーフスタッターが1963年に出版した『アメリカの反知性主義』によって用語として定義された。原題は "Anti-Intellectualism in American Life" であり、アメリカにおいては、キリスト教的平等の立場を下地にして、知的権威やエリート主義(の越権)に異議を唱えるという態度を指す。「反・知性主義」と区切りを打つのが適当だろうか。

 あらかじめ言っておくが、反知性主義は無知性や無教養のことなのではない。(…)「知性一辺倒ではありたくない」というのだから、知性一辺倒の主義主張に反旗を翻したいのだ。それは、権威的知性や知識人の大同団結に対する反発なのである。

千夜千冊 1638夜『アメリカの反知性主義』

 しかし、現代での、あるいは現代日本での反知性主義は「反・知性主義」に留まらず「反知性・主義」にまで発展しており、論の重心もそこに置かれているように思われる。内田樹[編]の『日本の反知性主義』は、「反知性」を「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度、『自分に都合の良い物語』の中に閉じこもる(あるいはそこで開き直る)姿勢」というタームとして提出している。

 ゆえに、ここで語られているのは、ホーフスタッターの "Anti-Intellectualism" と同義ではない。時代や社会によって言葉の意味の半径は変わるため、私たちは常に、言葉の氏と育ちを参照しながら、今に必要な示唆を選り分けて取り出していかなければならない。

 松岡座長は、石弘之氏との対談セッションの中で、為政者の反知性主義的振る舞いと、政治をはじめとする現代の意志決定のプロセスについて語った。

松岡座長:
何が為政者にああいった振る舞いをさせているのか。僕は、反知性主義的な振る舞いに人気が集まるのは、決して目の前の利益によるものではないと思います。為政者が発するメッセージには「差別」が関わっていて、その差別をあの人は強烈に解除してくれる、あるいは強烈に差別を作ってくれるという期待が、ポピュリズムや反知性主義を支えているのではないでしょうか。

 反知性主義は善意の衝動に寄生して生きているのだから、われわれは知性による手術ともいうべき不断かつ繊細な方法によって、可能なかぎり両者を切り離し、しかも、この手術で善意の衝動を傷つけないようにしなければならない。この方法によってのみ、反知性主義を検証し、抑えることができる。私は完全に除去できるとはいわない。それはわれわれの力の及ばないことであり、さらに、さまざまな悪を完全に除去しようとする情熱を野放しにすることは、現代のすべての妄想とおなじく危険だと考えるからである。

◆リチャード・ホーフスタッター『アメリカの反知性主義』20p

 「差別」、境界に関する編集は、「際」や「埒」や「DUST」といった[AIDA]のキーワードにも深く関わってくる。

松岡座長:
逆に、反知性主義をはらんだ政治行動に対抗するときに「民主主義的ではない」という言い方しかできないという貧しさも問題です。私たちは本来、呆れるほど多様な選択を持つべきであるのに、それを二者択一ないしは多数決にまとめてしまう。この制度が、結局は反知性主義を生み出していると思います。

 この後、松岡座長は、高大接続改革の課題を同様の構造的な問題として取り上げ、「容易にマルバツがつけられない、評価が難しい」記述試験の導入に対する頑強な抵抗を例に挙げた。

 私たちはどうしても、あれかこれか、客観的で議論の余地のない唯一の基準を作りたがってしまう。ダイバーシティを尊重しようとする流れは、一見、この二者択一を緩和する動きと思われるが、現状はその多様性を対象化して編集するしくみを生み出すには至らず、評価自体を放棄した相対主義に陥る危険をはらむ。

 イシス編集学校の[守]で学ぶスコアリングは、この放縦に対抗するための方法であり、[破]のプランニングは、さらなる複雑さを編集しながら現実に介入していこうとする試みである。折しも、11月28日(土)には45[破]の伝習座が開催され、[AIDA]の「連」やメディアチームを牽引する福田容子師範が、Hyper-Editing Platformに仕掛けられた「めんどくさい」プランニングの秘密を[破]の師範代たちに伝授した。

松岡座長:
この「めんどくさいもの」に踏み切らない限り、ダメだと思うんです。評価も含めて未知のターゲットXへ、五里霧中なところへ向かって先頭集団が走って行かないと。

 まだ見ぬ「編集的社会像」を構想する[AIDA]は、まさに、複雑さをかきわけての編集を試みるさなかにある。

 私たちは「反・知性主義(知性と権力の過度に固定的な結び付きに対する警戒、批判力)」の存在意義を正しく理解した上で、「反知性・主義」にはあらがっていかなければならないだろう。「反知性・主義」にあらがうとは、世界を知性と反知性とに二分し、自身を知性の側に置いて反知性を糾弾することではない。なぜなら、対立する相手に反知性というレッテルを貼り、異物(あるいは天敵、DUST)として排除し、相互編集を拒否する態度こそが、編集的社会像においては「反知性」的であるからだ。

 あれかこれかのアイダに相似や類似を持ち込み、「制度疲労・人材払底・構造流動・思考固陋」を突破していく方法が模索されている。

 過去のリベラルな社会がもっていた長所のひとつは、多様なスタイルの知的生活を認めてきたことである。(…)現代的条件のもとで、さまざまな選択の道が閉ざされる可能性はある。未来の文化を支配するのは、ひたすら特定の信条のために邁進する人びとかもしれない。たしかにその可能性はある。しかし人間の意志が歴史の天秤を左右するかぎり、人間はそうならないことを信じて生きる。

◆リチャード・ホーフスタッター『アメリカの反知性主義』380p


  • 加藤めぐみ

    編集的先達:山本貴光。品詞を擬人化した物語でAT大賞、予想通りにぶっちぎり典離。編纂と編集、データとカプタ、ロジカルとアナロジーを自在に綾なすリテラル・アーチスト。イシスが次の世に贈る「21世紀の女」、それがカトメグだ。

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