エディスト虎の穴・ジャイアン人物伝 #003 小林幸子の「型を破って宙を舞う」

2021/01/08(金)10:00
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エディスト新人ライター・角山ジャイアンに示された「お題」は人物伝。海千山千のインタビュー経験を渉猟しながら、「イシスっぽい人」をイシスの外に見つけだす。果たしてジャイアンは、先達エディストライターを唸らせることができるのか!?

(前回はこちら

 

ボカロ曲を歌う小林幸子を聴いたことがありますか。
まだならまずは『千本桜』からどうぞ。高速、高音、高気の三位一体の歌声に、度肝を抜かれることでしょう。
実際に対面したサチコサンもまた、ボカロ曲のように高速でした。笑って喋り、喋っては笑う。かと思うと、こちらが話している時はピタッと口を閉じ、ぐっと目を見据える。油断すると射貫かれます。 

サチコサンは今や演歌の枠を超えて、ネット界やアニメ界でも自由に羽ばたいています。たまに本当に鳥に乗ってステージに登場します。「小林幸子」と聞けば、誰もが紅白歌合戦のあのド派手な衣装で宙を舞う姿を思い浮かべますが、サチコサンのコンサートに行けば、常に豪華絢爛、光彩陸離。ド派手な衣裳は健在です。
サチコサンは紅白には1979年から計34回出場していますが、実は最初の10年間は、極めて普通の衣装でした。いったい何があったのでしょうか。その「さしかかり」をご本人にうかがいました。

 

サチコサンはある日、三代目市川猿之助さん(現・二代目市川猿翁)のスーパー歌舞伎を観ていました。感激屋ですからね、すっかり魅せられてしまった。で、そのまま伝手を頼って楽屋へ突撃。

 

感動しました! 私もスーパー歌舞伎のような衣裳を着たいのですが、マネしてもよろしいですか? 十八番の宙乗りもやらせていただきたいんです!》(『ラスボスの伝言』小学館)

 

ここからド派手伝説が始まりました。
すっかり意気投合した二人は、よく一緒に食事をしていたそうですが、あるディナーの席で、猿之助さんから幸子さんに唐突に「問い」が投げかけられます。

 

幸子さん、型破りってどういうことかわかりますか?》(同前)

 

誰もやったことがないことを、といってやるのは、「型破り」ではなく、ただの「型なし」だと猿之助さんは諭します。代々受け継いできた「型」を全部わかった上で、新しいことに果敢に挑戦する。これが歌舞伎の「型破り」である、と。
サチコサンさんはピンと来たんだそうです。あなたの基本(演歌)を大切にしなさいよ、その上で挑戦を続けなさいよ。そう背中を押してくれているのだと気づいた。

 

英語の出来る関西人の女の子に、学生時代、コンコンと説教されたことを思い出しました。
「語学をマスターしよう思うたら、コツは我慢すること。目の前にコップがあるとするでしょ? そこに水を溜めるの。ちょっと溜まったからって飲んだらアカン。溢れるまで待って。それが語学のコツやで」
水を上まで溜めるとは、完全に理解したとなるまで踏ん張れ、ということです。せっかちなジャイアンはいい加減な理解で見切り発車するので、最後は寄る辺を失いグダグダになる。いわば「型なし」です。

 

幸子さんのコップには、水が溜まっていた。11歳から磨いてきた演歌という型があった。だからボカロであろうがアニメであろうが動じない。型を破って飛び出していける。
紅白の衣裳も、当時は「あの衣裳はやりすぎじゃないか」と叩かれたそうです。でも型があるから気にならない。まだまだいける、とアクセルを踏み続けた。最近はネット界隈やコミケにも出没し、「ラスボス」として人気を博していますが、これも型破り。
言ってましたよ。いつも「今」がいちばん面白いって。

 

型を守って型に着き、型を破って型へ出て、型を離れて型を生む。
イシスの守の型もコップの水と同じです。38番のお題すべてに真剣に向き合えば水が溜まる。さあ、あなたならどうします?
サチコサンなら一気に飲み干し、『千本桜』を歌うでしょう。守の学衆なら破でぶちまければいい。水がなくなってしまうって? 
大丈夫、また型に戻ればいいのです。

 

 

先達エディスト・丸洋子の指南:

型破りだからこそ、相手の本音を引き出せるジャイアンさんのインタビュー。幸子さんの豪華な衣装の裏に、歌舞伎と演歌の一種合成が秘められていたとは驚きでした。ビッグなお二人の逸話の「地」に、型なしと型破りの違いという深いテーマを掘り当て、創文は大きな魅力を放っていますね。さらにご自身の経験を重ねてくださったお陰で、このテーマが伝統芸能だけでなく、私たちの日常の場面にも繋がっていることが伝わってきます。

 

ふと、私の中で問いが生まれました。歌舞伎界の異端児と幸子さんは、なぜ型を破りたかったのだろうかと。歌舞伎の本来である「かぶく」に立ち返ったのでしょうか、「今様」としての演歌を蘇らせ、若い人々の胸に迫る何かを訴えたかったのでしょうか。つねに変わり続けることを課したお二人の冒険心の訳が無性に知りたくなりました。ジャイアンさんは、なぜ型破りを日々、めざしていらっしゃるのでしょう。ぜひ今度、教えてくださいませ。

ムムム。「なぜ型を破ったのか」を聞かなかったのを問われるのはいい。踏み込みの甘さは、甘んじて受けるぜ。だが最後の問いに、ジャイアンは刀折れ矢尽きかけた。なぜジャイアンは型を破らんとするのか。面白いから? それは理由にならない。ただ破りたいから? そもそも破れるのか? 破る以前に型はあるのか? ボ~エ~~~~~~!

 

丸さんの指南は美しき花。花の跡に柊。ジャイアンは血だらけである。

   柊掻いた 小さな創を

   塞がず進む 男道

(#004へつづく)


  • 角山祥道(ジャイアン)

    編集的先達:黒岩涙香。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り続け、感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系にする異端児。

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