オシリを締めよ!責任とるべき結びの一文【エントリー率驚異の97% 46[破]知文AT閉幕】

2021/05/17(月)20:12
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始まりがあれば終わりがある。
「一生に残る一週間を」とほろよい麒麟教室師範代 尾島可奈子が焚きつけた46[破]知文ATウイークは、5月16日(日)18時の〆切をもっていったんの幕引きを迎えた。今期の第1回アリスとテレス賞は、学衆67名中、65名がエントリー。97%のエントリー率は、編集学校20年の歴史でも一二を争うスコアではと囁かれる。作品はすでに集約され、月匠 木村久美子を含む11名の選評委員が選考準備を始めた。


文章は「ポッと出」で決まる。遊刊エディスト紙上でも強調されたが、もうひとつ忘れてはならないポイントがあった。それは「結び」である。引用された校長室方庵[039]でも、校長松岡正剛は「アタマとオシリが竜虎のごとく呼応している」作品をひいて、「おぬし、責任をとったなという知文」と評している。寺平賢司(松岡正剛事務所)によると、松岡はしばしば「最後の文は、ちゃんと全体を引き受けてあげなさい」と口にするという。


〆切3日前の深夜2時、師範 福田容子は「もしも限られた推敲の時間をどこに賭けるかとなったら」と推敲の優先順位を伝えていた。ゆかりカウンター勧学会、王冠コロナ勧学会に筆圧高く書き込まれたのは、「迷わず最後。結び一択です」とのガイド。
結びの一文がなぜそこまで重要なのか。それは、書き手のメッセージがそこにこそ結晶するからである。冒頭で仮説をうちたてたならば、それを読者に納得のうえ手渡すのがスジだ。脈絡なくポッとおかれたものに、読み終わるころにはゆるぎない存在感をドンともたせるのが書き手の覚悟である。

福田は、ポッと出コレクションに返歌をつけるように、過去のアリスとテレス大賞作品のなかから優れた「結びの一文」を選んで届けた。名付けて「結構コレクション」。福田の7選とコメントに、一部番記者の編集を加えて紹介しよう。

 

 

■知文AT大賞 結構コレクション

 


▼背後から「ぼくら」のカミソリが狙う。

『悪童日記』アゴタ・クリストフ 第41期 [破] アリスとテレス賞大賞■H.M.(百銭汀食教室)

本と著者と800字を引き取り喉元にカミソリを突きつける切れ味の妙。

 


▼世界が収まる程に、ひきだしは広い。

 『ひきだしにテラリウム』九井諒子 第38期 [破] アリスとテレス賞大賞■S.Y.(玲子組曲教室)

幾重にも重ねたしかけを「ひきだし」で引き受ける結構が巧み。

 


▼そう、光だ、音楽だ、逃走だ。

『ヘルメスの音楽』浅田彰 第12期 [破] アリストテレス賞大賞■M.N.(下駄ばき遍路教室)

加速して駆け抜け飛び去ってゆく、まさにヘルメスのサンダル!

 


▼そして、それを飛び越えようとしたのが石牟礼道子だった。

『椿の海の記』石牟礼道子 第37期 [破]アリスとテレス賞大賞■M.K.(ノードチェンジ教室)

本を書くことで、著者が何を成し遂げたのか。発見して言い切る。

 


▼入門書という名の結納品である。

『稲垣足穂さん』松岡正剛 第39期 [破] アリスとテレス賞大賞■T.S.(南天ささら教室)

一貫したメタファーを凝縮させたニューワード「結納品」がキマる。

 


本作は、想が恐怖を触媒として猿から人間へ至る、切実で健やかな道のりを描いた作品なのだ。

『神の左手悪魔の右手』楳図かずお 第35期 [破]テレス賞大賞■Y.S.(彩月ミシン教室)

独自のヨミを堂々と語りきった意気やよし!

 


▼「磯椿が咲き残っている」ことに気づきたいのだ。

  『椿の海の記』石牟礼道子 第40期 [破] テレス賞大賞■K.A.(サラーム同堂教室)

一貫した隔靴掻痒を託して余さず、切実あふれてなお止まず。


 

800字の知文の締めくくりは、「100メートル走を駆け抜けるイメージで」と福田は申し添えた。知文ウイークをなりふりかまわず走り抜いた学衆も多いことだろう。ゴール直後、ゆかりカウンター教室学衆Tは「[守]はそよ風、[破]は嵐と言われていましたが、本当でした」と立ち尽くした。

 

締切後、強風のやんだ今だからこそできる稽古もある。ジャイアン対角線教室学衆Iは、教室仲間の作品に感想を寄せ、アジール位相教室師範代畑勝之は、このプロセスで身についたものを振り返るよう鼓舞した。エントリー翌日、すでに教室にはクロニクル編集術のお題が届けられている。共読で、振り返りで、次なる稽古で、学衆は自分なりのケリをつける

 

画像:野嶋真帆

協力:寺平賢司

 

※知文関連記事※

●Amazonレビューを卒業する2つの方法 43[破]アリスとテレス賞

人気No.1はあの本だった! 43[破]知文AT

●43[破]セイゴオ知文術に向けて 42[破]受賞作の稽古模様

 

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。