カッパ衆のおしゃべり茶会―50[守]

2022/12/27(火)12:10
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 49[破]が天狗なら50[守]はカッパだ。12月23日、師範代の川上有鹿が率いるカッパらくらく教室の面々がオンラインで顔を合わせた。学匠 鈴木康代、番匠 石井梨香、師範 森本康裕も加わり、ここまでの稽古と編集を交わし合った。

 

 今回の汁講では川上から事前にお題が出されていた。自分らしさを踏まえた本を3冊選んで自己紹介するというものだ。「要素・機能・属性、編集思考素、略図的原型など、3という数字はこれまでの稽古でもいろいろなところに登場しました」。ルールに込めた意図が川上から明かされ、自己紹介がスタートした。

延谷幸子(学衆)
『音にさわる』広瀬浩二郎、日比野尚子
『太陽と月』10人のアーティストによるインドの民族の物語、青木恵都訳
『しま』マルク・ヤンセン

→点字・シルクスクリーン・絵のみと「要素・機能・属性」の違いが際立つ3冊

 

川上有鹿
『河童』芥川龍之介
『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ
『ドリフターズ』平野耕太

→『河童』と『りんごかもしれない』を「一種合成」して『ドリフターズ』へ

 

安東由仁(学衆)
『ku:nel』マガジンハウス
『鳥たち』よしもとばなな
『CIPHER』成田美名子

→バックナンバーも揃えるなど自身の数寄も溢れる「三位一体」

 

笠井成樹(学衆)
『自由からの逃走 新版』エーリッヒ・フロム、日高六郎訳
『ケインズ全集〈第2巻〉平和の経済的帰結』ケインズ、早坂忠訳
『外は、良寛。』松岡正剛

→問いを生み出し手すりにもなっている「三間連結」

 

佐藤裕子(学衆)
『江戸の想像力』田中優子
『苦海・浄土・日本』田中優子
『江戸問答』田中優子、松岡正剛

→特別講義も開催される田中優子の「三位一体」

 

鈴木康代
『アテンション』ベン・パー、小林弘人
『ほろ酔いばなし 酒の日本文化史』横田弘幸
『農と言える日本人』野中昌法

→『アテンション』を起点とし「地」に食文化がうかがえる「二点分岐」

 

小泉涼葉(学衆)
『Nine O’Clock Lullaby』マリリン・シンガー
『すてきなあなたに』大橋鎭子
『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために』渡邊淳司、ドミニク・チェン

→自身のクロニクルをたどる「三間連結」

 

森本康裕
『弓と禅』オイゲン・ヘリゲル
『失敗の本質』戸部 良一、寺本 義也、ほか
『日本人と日本文化』司馬遼太郎、ドナルド・キーン

→こちらもクロニクルの「三間連結」、日本という「地」だと「三位一体」も

 

石井梨香
『14ひきのおつきみ』いわむらかずお
『水晶』シュティフター、手塚富雄・藤村宏訳
『自転車泥棒』呉明益、天野健太郎訳

→師範代登板時の先達文庫も加えた「三間連結」

 

 自分と本の間にある対角線と共に多彩な本が挙げられる。初日の東京芸術劇場に行ったという笠井は、『外は、良寛。』を踊りというメディアで表現した田中泯について述べ、佐藤は1月15日に開催される特別講義に肖って田中優子の3冊を語った。
 子供達も負けていない。安東の息子は、安東の自己紹介の合間を縫って『あーん』『あむ』『もこもこもこ』の数寄な絵本の三位一体に加え、乗り物や危険生物などの図鑑を紹介した。お母さんや画面の向こうの大人達を真似ながら、絵本と図鑑の系統樹も感じられる編集を見せてくれた。

 

カッパらくらく教室の汁講には9名に加え、特別ゲスト2名の子供達も顔をのぞかせた。

(左上から川上、森本、鈴木、延谷、安東、佐藤、小泉、石井、笠井)

 

 小泉が勧学会で持ち出した「対話」についても交わされた。当日の午前中に対話型アート鑑賞に参加していた延谷は、その様子と共にこう述べた。

人の意見で自分の意見も広がる、その積み上げが対話である

 「編集は対話から生まれる」。自己紹介の3冊を通して、画面の向こうでの身振り手振りで、教室の稽古や勧学会の話題をベースにして、対話のきっかけはあらゆるところに潜んでいる。それらをキャッチし、問感応答返を重ねて編集するのである。「対話」はこの先もカッパらくらく教室のキーワードとなるだろう。

 

 川上は教室名のシソーラスの1つに「1杯の紅茶」を意味するcuppaを挙げている。緩急つけられたお題の川を泳ぐカッパと、ゆったりとお茶を飲みながら交わし合うカッパ。この行き来がまだ見ぬ編集可能性に繋がっていく。年末年始には第2回番選ボードレールも待っている。番ボーへの意気込みも聞こえる中、どのような対話が広がっていくか楽しみだ。

 


  • 森本康裕

    編集的先達:宮本武蔵。エンジンがかかっているのか、いないのかわからない?趣味は部屋の整理で、こだわりは携帯メーカーを同じにすること?いや、見た目で侮るなかれ。瀬戸を超え続け、命がけの実利主義で休みなく編集道を走る。

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