物語は続くよ、どこまでも~賞選本は稽古とひとつなぎ【感門75】

2021/03/27(土)08:00
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「綴じて、開く」
 感門之盟から10日。2021年3月23日、赤羽綴師の言葉で、13綴物語講座は幕を閉じた。
 
 イシス編集学校においては、本を媒介に人と人が繋がることは、極めて当たり前のことである。だが、こと「賞品」として手渡されるのは、実は物語講座だけだ。
 感門之盟で発表された、この物語講座ならではの「賞選」。13綴では「窯変・落語賞」「窯変・ミステリ賞」「窯変・童話賞」「トリガー賞」「編伝賞」の各賞を5人が分け合った。
 
 

■窯変三譚(落語・ミステリ・童話)

 ひとつの素焼きに「落語」「ミステリー」「童話」の3つの釉薬をかけ、変じて焼き上げる「窯変三譚」。

 
 窯変・落語賞の贈呈本が、なぜ『地平線の相談(細野晴臣・星野源/文藝春秋)』だったのか。受け取った平形智子(今昔ティファニー文叢)の作品『耳修行』は、随所に響くオノマトペが、作品にいいリズムを生み出していた。『地平線の相談』は、細野さんと星野さんの世界観の交錯が、音を聞き分ける専門家、超一流の音楽家独特の会話のテンポとあいまって、とても心地いい。この感性を平形に重ねたら、また面白い景色が生まれそうだ。
 
 
 窯変・ミステリ賞の3人は、ちょっと他のジャンルと顔ぶれが違った。これが、物語講座の面白いところ。パーフェクトなヒーロー・ヒロインは出にくい。『クールベット』で1席を受賞した村山明日香(ねじ式結晶文叢)に送られたのは、『ザリガニの鳴くところ(ディーリア・オーエンズ/早川書房)』。2つの作品に共通するのは、みずみずしい自然の中に生きる少年少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出すところ。そう、村山の作品の魅力は、この独特の透明感。海外のミステリーとの邂逅で、さらに磨きをかけてほしい。
         
 
 
 小林奈緒(ドリトル銀の匙文叢)の童話受賞作は、その名も『キノコ』。小林にとって大切な大切な「小さな人たち」と日々触れ合いながらの稽古の中で、自分自身の幼な心をゆっくりしっかり掘り起こし、読む人の郷愁にもほんのり染み渡る作品に仕上がった。贈呈本『マイコフィリア きのこの愛好症(ユージニア・ボーン/PIE Intermational)』で、もっともっと耽り、もっともっと幼な心を覗き込んでほしい。アリスの、どっちかが大きくなり、どっちかが小さくなるキノコにも出会えるかもしれない。
         
 
 
■トリガー・ショット
 
 トリガー賞・竹岩直子(ねじ式結晶文叢)の稽古ぶりは、とても丁寧だった。だから仕上がった作品が、トリガー・ショットならでは、優しく静謐な情景が浮かぶものだったことは、なるほど道理だと思った。だが、驚くべきは、そこから音が聞こえてくることだった。登場人物の言葉が、鍵盤楽器のように滑らかに、ときに打楽器のようなインパクトで鳴る。そこから生まれる違和感が、そのまま少年の肉体に宿る秘密につながってもいた。贈られた『バグダードのフランケンシュタイン(アフマド・サアダーウィー/集英社)』の舞台は9.11後のバグダッド。少し不気味で、でも妙にリアルな肌感覚を持って、現代のテロ時代を表現しているところが、竹岩の作品と重なった。

 
 
■編伝1910
    
 編伝賞・小林陸(今昔ティファニー文叢)の作品は、推敲期間を経たエピローグ参稿で、驚くほどの進化を遂げた。オスマン帝国統治下のクレタ島、そしてギリシャをめぐる政治的かつ宗教的背景は、興味深くはあれど、なかなかの難敵でもある。13年間の講座の歴史の中で、ベニゼロスを取り上げた作品は初だったのではないか。「メガリ・イデア」を標榜し、切り込んでいったベニゼロス同様、ここに焦点を当てて1910を描き切ろうと、逃げずに真正面から向き合った小林のチャレンジ精神を、『非楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事( エミール・ハビービー/作品社)』で、讃えたい。それは「もっともっと自分入りで」という、期待でもある。
      
 
 
■冠綴賞
 
 冠綴賞は、トリガー賞も受賞した竹岩直子(ねじ式結晶世界文叢)。「恩師」である川野師範からの愛あるメッセージ「物語講座第13綴「冠綴賞」の行方【75感門】」において、「竹岩の知は、豊かな感受性と透徹した洞察が両立する、イシス流に言えば「アリスとテレス」の総和がたいへん大きな知である。」と評されていたが、トリガー賞受賞、落語2席、童話2席、編伝2席は、まさにその表れ。さきほど、パーフェクトなヒーロー・ヒロインは出にくいと書いたが、竹岩の物語力は、歴代冠綴賞の中でも圧巻の総合的バランス力であった。木村月匠から画面越しに手渡された『冬の物語(イサク・ディーネセン/新潮社)』は、瑞々しさと荒々しさと誠実さが、竹岩の作風にぴったりとよりそう。これからも、竹岩が竹岩らしさにとことん向き合えるようにという願いを込めて。
 
 

物語の世界は、綴じて、開く。
稽古は続くよ、どこまでも。
旅はまだまだ終わらない。

 

次はあなたの番だ。

  • 小濱有紀子

    編集的先達:倉橋由美子。古今東西の物語を読破し、数式にすることができる異才。国文学を専攻し、くずし字も読みこなす職能。自らドラムを打ち鳴らし、年間50本超のライブ追っかけを続ける情熱。多彩で独自の編集道を走る、物語講座・創師。